また人の倍以上に物に頓着する私にとっては、美しい道具との出会いも至福のひと時である。5年ほど前に購入した19ヴァンキッシュというリールは、とりわけ私の釣り道具人生の中で、強い輝きを放つ一等星である。シルキーでほろっと涙がこぼれるほどの軽い巻き感――私の最大の相棒である。

最低の思い出は事故・破損
これは普通に釣りをしていてあまり巡り合うことではないと思うのだが、私は不運にして釣りの帰りに単独の交通事故をしてしまったことがある。買い換えたハイブリッドカーが三か月でパーになってしまったので、これは悔いるものがあった。しかしその際、自分の持病を知ることになり、そこから「いつ死ぬかわからないから、その場その場、結構図太くいこう」というような人生観ないし悟りを得ることにもなったので、それはそれでいい。
そんな不幸な出来事よりも地味に心に突き刺さって棘を残すのが、道具の破損だ。バラした魚はすぐに吹っ切れる私だが、ロッドの破損などはいつまでも覚えている。「ちょっと俺ばっかり、多くないか?どういうことだ」と思うほどロッドやタモを折ったりするのだ(タモは一年で三度折ったことがある)。

こればかりは常々自分の不信仰が祟っているのかもしれない。神仏を尊ぶ心など今さら持ったところでどこまで徳が上がるかわからないほどの愚を犯してきたが、悪人正機。ネバー・トゥー・レイトか。
未来永劫のゲインは釣りを始めたこと
釣り人が持ちうる最大の利得、生涯のゲインはやはり釣りを始めたこ とそのものに違いない。こればかりは皆さん共通してそうではないだろうか。
この極寒の冬季にろくすっぽ釣りをしていないと、やり方までは忘れないが、生きている感じはまったくしていない。人生には釣りが必要だ、と強く思う。