このパネルはS&P GlobalのCERAWeek Websiteで閲覧することができるので筆者も30分余りの対談をあらためて視聴してみたのだが、エネルギー問題についてヤーギン氏から水を向けられたフィンク氏が、自分は依然脱炭素の必要性は信じるものの、世界の情勢が一変していて、インフレが進む中であらゆる脱炭素関連技術のコストが急上昇して投資採算性が悪化している問題を指摘。米国が(前政権下で)進めてきた水素プロジェクトも、グリーン水素もグリーン水素も技術的には可能だとしても、その高コストの水素にいったい誰が金を払うか?と問題提起をしている。
一方でフィンク氏はデータセンターやAIによるエネルギー(電力)需要が急拡大する見通しの中で、データセンター向けの電力供給拡大について、「4年前には再エネ電力がマスト(必要)とされていたものが、2年前には再エネが望ましい(Preferable)に代わり、今や単にもっと多くの電力が必要・・となった(再エネ条件が脱落した)」ことを指摘している。
またエネルギー供給について現実的(Pragmatic)なアプローチの必要性について何度も言及し、エネルギーコストを下げることの必要性とDispatchable(安定供給可能)なエネルギー(=化石燃料と原子力)の重要性について4回も繰り返し発言しているのである。
また天然ガスの重要性・必要性については今後50年以上続くともコメント。さらに100GWもの原発の新設を進めている中国との競争の中で、米国にも確固とした原子力戦略が必要とも発言している。
これが数年前まで、投資先の経営者にむけて毎年送ってきた手紙の中で、サステナブルでグリーンな成長を志向すべしと求め、いわゆるESG投資ブームの騎手を務めてきた米国金融界の大御所による公の場での発言なのであるから、米国経済界・金融界の状況は一変していると見てよいだろう(今年の「経営者への手紙」はまもなく発出されるということだが、世界最大の資産運用会社が投資先の事業経営者に求めるものが大きく様変わりするだろうことは、上記のパネル討論の発言から予想に難くない)。