その後に披露したのは、「Lost」。原曲とは異なり、エミリーとピアノを弾くマイクとエミリーによるピアノ・デュエットバージョンだ。会場をしっとりと浸らせたピアノのメロディは「Breaking the Habit」のイントロに繋がった。楽器隊のサウンドが比較的静かなこの曲ではエミリーの声の圧力が非常に際立った。
さらに「What I’ve Done」でもエミリーが力強いボーカルを響かせ、“崩壊”後のバンドを支える要となる彼女の実力と決意がひしひしと伝わった。

フェニックス(Photo Credit:1ssul)
<金継ぎ>-“戻る”のではない、彼らの新たな始まり
アンコール前最後のパートは<Kintsugi>(金継ぎ)と呼ばれる。映像でも、“崩壊”のヒビを癒すように光が動いていく。
“金継ぎ”はマイクのルーツのひとつでもある日本の伝統工芸。欠けたり割れたりした食器などを漆と金粉によって修復することで、金色の継ぎ目が模様のように入った“この世にひとつしかない新たな食器”が生まれるのだ。
唯一無二のチェスターの逝去によって欠けてしまったリンキン・パークにどんなメンバー、サポートメンバーが入ろうと、元のリンキン・パークに戻ることは絶対にできない。
しかし、残されたメンバーはエミリーとコリンという新メンバーを得て、金色の継ぎ目のついた食器のように新たな“唯一無二のバンドの形を取り戻し、力強く立ち上がった。メンバーがそう感じていることが“Kintsugi”の1単語だけでわかる、非常に感動的な演出だ。
マイクが優しい声で歌い出したのは「Leave Out All the Rest」。再び会場は揺れるスマホのライトで包まれる。会場を見つめる満足げなマイクの微笑み。これだけで“Linkin Park”が再始動して本当によかったと深く感じさせられる。
コリンがアコースティック・ギターに持ち帰ると、エミリーが「My December」をしっとりと歌い出す。マイク、コリンらのコーラスも加わり、会場を美しいハーモニーが満たした。曲が終わるまで静かに見守った観客は、拍手とともき「エミリー!エミリー!」と声を合わせる。