たとえば、現在、ウクライナは、ロシア領クルスク州の国境の町スジャ及びその周辺地域を「占領」している。これについて、「違法」だという声はあがっていない。ロシアのウクライナに対する侵略行動が違法であると想定され、ウクライナがそれに対して合法的な自衛権を行使し、クルスク侵攻作戦がそのウクライナの自衛権行使の一環として行われている場合、「占領」も違法性は阻却されるはずである。これは「武力行使に関する法(jus ad bellum)」の観点から精査される事項だ。

あるいはイスラエルも、1967年当時の状況だけを見たら、安全保障上の懸念を除去する自衛目的の行動の一環として、現在「パレスチナ被占領地」と呼ばれている地域を「占領」したと言えるかもしれない。

しかしICJ勧告的意見は、その後半世紀以上に渡る長期の「継続的な占領」が、そのような理由で合法性を認められる可能性はない、と判断している。入植活動その他の一連の占領政策は、仮に完全「併合」の宣言を伴ったものでなかったとしても、事実上の「武力による領土獲得」を構成している、と考えざるを得ないものだ。

ICJの勧告的意見については、多数派の判事が、「武力紛争中の行為に関する法(jus in bello)(国際人道法)」の理由をもって、「武力行使に関する法(jus ad bellum)」(自衛権行使と占領の関係はこちらに属する)の事項の判断をしているのではないか、という見方もあるようだ。

しかし「継続的で事実上の力による併合」の要素を伴う占領は、合法性を認められない、というのが、ICJの判断だ、と考えるのが妥当だろう。国連総会における多数派の諸国も、そのような判断をした。

こうした経緯があり、ICJとそれを踏襲した国連総会は、イスラエルの「違法な存在」という概念を用いている。仮に「占領」概念には合法性を認められるものがあったとしても、あるいはイスラエルのガザ政策に安全保障上の考慮に基づく事情があったとしても、さらにはガザに対するイスラエルの政策は純粋な意味での「占領」ではないと主張する者がいるとしても、なお現実の「イスラエルの継続的な違法な存在」は、違法であるがゆえに、決して認められない、という立場を、ICJも国連総会も、とっている。