へえ…と頷いて、地面を見てみる。なるほど、この白いカスのようなものが乾いたちりめんらしい。
おじさんの方が空を見ながら、「それにしても雨は来るんかね、来ないんかね」と呟いた。
「僕、須磨の方から電車できましたけど、須磨は降ってましたよ」と私。
「ああそう、ふうん」
「風は西から東ですね。じゃあこっちはもう降らないまま通り過ぎてくれたのかな」と青年が言う。
この地点から東西で言うと垂水は西側で、須磨は東側になる。西から東の風が吹いているということは怪しい雲は垂水の上ではまだしも黙ったまま通り過ぎて、須磨の頭上くらいから雨を降らせ始めたのだ。
それにしても、「ちりめん」というのは何なんだろう…という疑問は、胸の中にしまっておいた。何かの稚魚なのだろう。釣り人界で言う「しらす」も大体いろんな魚の稚魚のことだと聞いたことがある。
――と、今調べてみると、「ちりめん」とはイワシの稚魚を、しっかりと乾燥させらものらしい。「しらす」はそのままか、半分乾いた状態。なるほどおじさんがあの箱をちりめんと言っていたのは、乾燥させている過程だったのか(おそらく。推測です)。
「一番儲けるのは問屋」
「儲かるんですか」とまたおもむろに聞いたのは、金のことばかり考えている貧乏人の私である。
「ちりめんはもう…儲かるよ。でも一番儲けるのはアレ、漁師さんじゃなくて問屋やね」
「問屋ですね」と青年も同意した。
なるほど。朝早いこと起きて、重労働して、モノを捕ってくる。それでも間に入る問屋さんが一番儲けるわけか。俺も問屋になればよかったな、とバカなことを思いながら「それでは失礼します」と頭を下げ、「頑張って」というように手を振る二人から離れると、どうやらそこは関係者以外立ち入り禁止の場所みたいだった。上には食堂なんかもあって、いつか入ってみようと思っていたところなのだけれど。