ただ、トランプ氏も、撤退が間違いだった、という理由でバイデン氏とハリス氏を責めているわけではない。「屈辱」の撤退の責任が、バイデン政権にある、という理由で、非難している。つまり自分が大統領を務め続けていたら、米兵の犠牲を出すことのないより良い撤退をした、という含意である。

このトランプ氏の主張の信憑性は、「歴史のif」になってくる問題なので、にわかには判断できない。ただ2021年1月にトランプ氏から大統領職を引き継いだバイデン氏の姿勢が曖昧だったことは事実だ。撤退を決めた人物と、実際に撤退を遂行した人物が、全く異なっていただけでなく憎みあってさえいたことが、悲劇の一因であった、とは言えそうである。

2020年2月末に当時のトランプ政権とタリバンとの間で「ドーハ合意」が結ばれて、アメリカの完全撤退が決まったとき、その期限は2021年4月末と定められていた。当時は誰しもが、あまりの早期の撤退のスケジュールに衝撃を受けた。アフガニスタン共和国政府の瓦解は時間の問題と思われ、おそらくは大統領選挙に勝つためにトランプ大統領が拙速な合意をタリバンと結んだのだろう、と考えた。私もそうだった。当時は、アフガニスタン共和国政府の瓦解は、あってはならない出来事、と誰もが信じていたのだ。

ただし、それはトランプ大統領が不真面目だった、ということを必ずしも意味していない。先月の共和党全国大会における大統領候補指名受諾演説において、トランプ氏は、おそらくは聴衆のほとんどが理解しないだろうタリバン指導者との会話を回顧したりしていた。日本では、学者層でも、アフガニスタンなどは過去の話で、今さら思い出したり語ったりすることなどないのが普通である。それを考えれば、当時のタリバンとの交渉への自分の想いをまだ強く記憶しているトランプ氏は、真剣である。

アフガニスタンについて熱弁をふるったトランプ氏
トランプ前大統領が、正式に米国共和党の大統領候補となった。私はアメリカ政治を専門にしているわけではないので、普段から継続的に細かな米国内の動向を追っているわけではない。しかし次期米国大統領の政治姿勢は、やはり気になる。動画でトランプ氏の指名...