ゼレンスキー大統領は、ウクライナの敗北が、アメリカの威信を大きく傷つける事態となることを覚知しているので、戦線を拡大し続けても、バイデン政権がウクライナを見放すことはない、と計算していると思われる。実際に、目的を表明しないまま戦線を拡大させているウクライナに対して、批判的な声は、支援国側からは出ていない。

また、ロシア領内で戦線が拡大すれば、ロシアは停戦に応じる意欲を低下させるはずだ。そうなれば仮にトランプ氏が当選した場合でも、容易にはウクライナが譲歩する形での停戦合意はまとめられなくなる。ウクライナとしては、永遠に停戦を拒絶し続けるロシアでいてもらいたい。そこでウクライナ政府は、仮に直近の軍事的合理性が明確ではない作戦であったとしても、今のうちに戦線を拡大させることは、利益になると考えているようだ。

現地時間で11日、ロシア占領下にあるサポリージャ原子力発電所の冷却塔で火災が発生した。ロシアはウクライナのドローン攻撃によるものだとして、ウクライナはロシアが放火したものだとして、双方が、即座に非難を開始した。いずれにせよ、非常に危険なエスカレーションが始まっている。

アメリカの大統領選挙まで、まだ3カ月ある。バイデン大統領のレイムダック化は、目を覆う程度だと言ってよい。このままであると、中東と欧州の緊張はさらに高まっていくだろう。

人命を重視する観点から見れば、非常に由々しき事態である。もはや日本外交に何かを期待できるレベルではない、と言えば、その通りかもしれない。だが日本は、少なくとも後世の評価になるべく耐えられるように、直近では不要な外交的制約を作り出していってしまわないように、先を見て行動し、発言していくことを心掛けなければならない。