トランプ前大統領は、ハリス大統領との差を明確にするイスラエル寄りの立場で、ユダヤ人票を確保する姿勢を明確にしている。ハリス副大統領は、ガザの惨状に懸念を持っていることをネタニヤフ首相に伝えたが、イスラエルの軍事作戦に反対しているわけではなく、外交経験が乏しい政治家として、イランやイスラム過激派に弱気だというイメージを持たれることは避けたいだろう。ハリス氏は、副大統領として、いずれにせよバイデン政権の既定路線に拘束され続ける。

バイデン大統領と会談するイスラエル・ネタニヤフ首相
ネタニヤフ首相SNSより

そのバイデン大統領は、大統領選立候補の辞退を決めてから、存在感をいっそう減退させている。ネタニヤフ首相と会談した際も、何らかの政策的姿勢を強調するような素振りが全くなかった。イスラエルが冒険的行動に出ても、具体的な行動を通じて、イスラエルに圧力をかける外交をすることはないだろう、とみられている可能性が高い。

ネタニヤフ首相としては、どんなに強硬な姿勢をとっても、アメリカが離れることはない、という計算をしているだろう。もしハリス氏が弱気な姿勢を見せれば、トランプ氏に攻撃してもらい、トランプ当選の可能性を高めてもらうだけだ。自らの国内の権力基盤の整備のためにも、バイデン大統領が求めていた停戦交渉の可能性などは潰してしまい、「文明と野蛮の戦い」にどこまでもアメリカを引きずり込んでしまいたいところだろう。

バイデン大統領の任期が残っている間に、強硬な姿勢でアメリカをさらなる軍事作戦の深みに引きずり込みたい動機は、トランプ氏の当選を恐れるウクライナも、似たような状況にある。

アメリカの政治家層のイスラエルとウクライナを見る目は異なっている。しかし、アメリカが強力な軍事的後ろ盾であり、後に引き返せない程度にまでアメリカを軍事作戦の深みに引きずり込みたいという動機づけを強く持っている点では、両国の立場は、同じだ。