不動産投資に勧誘するうたい文句のひとつに「不動産は実物資産であるためインフレに強い」というものがあります。多くは観念的な話にとどまり、根拠が示されていません。実際のところはどうなのでしょうか。
物価が上がれば金利が上がる、金利が上がれば不動産価格が下がる
土地や建物は「モノ」ですから、不動産価格は物価の上昇に伴って伸びていくはずです。基本的にこの理屈自体は間違っていません。ただし反論の余地もあります。物価上昇の影響を受けて市場金利が上昇し、そのせいで不動産が値を下げるというものです。
物価と金利は密接な関係にあります。インフレターゲット政策のもと、政府と日本銀行はマイナス金利を導入しました。金利を徹底的に下げることで市場にお金を大量供給して経済を刺激し、物価の上昇につなげる目的です。
もし狙い通り物価が上がったら、今度は金利を上げる必要が生じます。市場にお金がダブついたままだと貨幣の価値が下がり、度を過ぎたインフレが起こってしまう可能性があるからです。
市場金利が上がれば銀行の貸出金利も上がります。ローンを組んで不動産を買う人にとっては支払総額が増えるでしょう。すると不動産が売れにくくなり価格を下げざるを得なくなります。つまり物価が上がると不動産価格は下がるのです。
ただこれは、経済や相場のセオリーをツギハギしたような話です。実際にその場面になってみないとどうなるかは分かりません。「物価も不動産価格も似たようなもの」といえるほど、単純なものではないということは確かです。
地価と物価は連動する傾向にある
不動産価格と物価の関連性を探る研究はいくつかあります。日本銀行金融研究所「バブル期の金融政策とその反省」では、地価が物価に先行して動く関係が示されています。同じ期間で比べると、両者の関係はほとんどありません。数字が高いほど比例することを示す相関係数はほぼゼロです。
しかしタイムラグがあるとしており、物価と4四半期(約1年前)の地価との相関係数は0.3と、若干の相関を示しています(相関係数の最大は1であり、高いほど関連性があるとみなせます)。データの対象期間は1967年から1999年です。
もう少し細かく見ていきましょう。株式会社都市総合研究所の「不動産レポート2014」は、地価とさまざまな景気指標の関連を詳細に分析しています。データの抽出期間は先ほどの研究と異なり、2003年から2013年までの間です。
全国消費者物価指数と地価の相関係数は0.46と、中程度の相関です。詳細に見ていくと6大都市が0.72、東京都区部の工業値が0.75と高い相関を示しています。同じ東京都区部でも、住宅地は0.26と弱い相関です。
実証研究によると、たしかに「地価と物価は連動する傾向にある」といえます。東京の住宅地を除くと、大都市ほど連動しやすい傾向にあります。
インフレが起こればローンは目減りする
実際に不動産投資を行う場合、不動産価格以外の要素にも注目する必要があります。多くの人は購入する際、ローンを利用することになるでしょう。インフレや金利とどう関わっていくのでしょうか。
投資向けローンの多くは変動金利です。インフレに伴って市場金利が上昇すると、金利負担が増えるでしょう。ただし、あまり心配する必要はないかもしれません。インフレが起こった頃には返済が進んでおり、利息計算の元となる元金が減っている可能性が高いからです。それに金利が上がっても返済額はすぐには増えません。アパートローンのようなパッケージ型融資商品には、住宅ローンと同様に「5年ルール」や「125%ルール」など増額の範囲を限定する仕組みが導入されているのが一般的だからです。
一方、インフレが起きれば元本は実質的に減ります。物価が上がってもローンの額面は変わらないからです。これも返済が進んでいれば与える影響は少ないでしょう。金利の上昇分はカバーできるかもしれません。
総合的に見てインフレは不動産投資家に有利
インフレが金利を上げさせ、不動産価格の下げ圧力になることは理論上考えられます。しかし実証研究では、地価と物価は連動しやすい傾向にあることが示されています。ローンに関しては金利負担が重くなる一方で、貨幣価値が下がり実質的な残高が少なくなるため、一長一短があるといえます。地価の上昇分だけ不動産所有者に有利といえるでしょう。
文・佐古野 道人/提供元・YANUSY
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