不動産投資のメリットの一つとして「減価償却」が挙げられます。「不動産投資を始めると減価償却で節税になる」という漠然としたイメージを持っているものの、実際はよく分からないという方は多いのではないでしょうか。
減価償却とは何か?
・なぜ減価償却が節税に役立つのか?
・減価償却が不動産投資の「メリット」と言われる理由は?
これらの疑問を解消できる、減価償却の基礎知識を見ていきましょう。
目次
1.減価償却とは
1-1.減価償却費の意味
1-2.減価償却の基本的な考え方
1-3.法定耐用年数と減価償却の関係
1-4.減価償却は不動産以外にも適用される
1-5.減価償却が適用されるのは建物のみ
2.不動産投資における減価償却が節税になる2つの理由
2-1.減価償却費を計上すると利益を圧縮することができる
2-2.減価償却費の計上でキャッシュフローが多くなる
3.減価償却費の計算の基本
3-1.当該建物の法定耐用年数を調べる
3-2.不動産における減価償却費の計算式
3-3.中古物件の「簡便法」について
4.不動産における減価償却費の計算例
4-1.新築一棟RC造マンションの場合
4-2.新築木造アパートの場合
4-3.中古物件・耐用年数以内の場合
4-4.中古物件・耐用年数を超過している場合
5.減価償却で押さえておくべき2つの注意点
5-1.不動産価格のうち「建物」の価値を知る方法
5-2.売却時に多額の税金が発生する場合がある
6.まとめ
1.減価償却とは
ここでは「減価償却とは何か」という基礎について押さえておくべきポイントを解説します。
1-1.減価償却費の意味
建築物を含むすべてのモノは時間の経過とともに劣化していきます。時間経過による劣化のことを経年劣化といい、時間の経過に合わせてその対象物の価値は減少していくとされています。
例えば、築5年のマンションと築30年のマンションを見て、どちらが価値の高いマンションであるかを問われたら、ほとんどの人が築5年のほうについて価値が高いと答えるでしょう。この差が、「経年劣化によって失われた価値」です。経年劣化によって失われた価値を数値化したものを、「減価償却費」といいます。
会計上の価値が低くなっていくだけで、実際に建物の一部が失われるわけではありません。どれだけ価値が失われたのか、それを税務的見地から可視化したものが減価償却費です。
1-2.減価償却の基本的な考え方
減価償却をさらに理解するために、会計学の基本である「費用収益対応の原則」という概念を説明します。
「費用収益対応の原則」とは、事業で上がった利益に対してどれだけの費用がかかっているかを測定するのにあたり、「その期間の貢献を抽出して認識する」という原則です。「ある期間に上がった利益に対して設備や材料などがどれだけの貢献をしたか」を、「該当する期間ごとに割り当てる」というニュアンスになります。
例えば、1億円をかけて工作機械を導入し、その機械が10年間にわたって製品作りに貢献し、利益を上げたとしましょう。この場合、機械の価格は1億円ですが10年間活躍してくれたので、1年あたりの貢献に要した費用は1,000万円ずつという計算が成り立ちます。この会社は10年間にわたって、毎年1,000万円ずつ経費を計上することになるでしょう。
この考え方を不動産投資に当てはめると、「家賃収入を得るために、償却資産である建物が貢献をしている」と考えることができます。1年あたりどれだけの貢献をして、それと同時に劣化によってどの程度価値が少なくなっていくのかを「減価償却費」として計算し、それを経費とすることができます。
1-3.法定耐用年数と減価償却の関係
不動産投資に供する建物には、木造アパートやRC造のマンションなどがあります。これらの建物は構造ごとに法定耐用年数が定められています。それぞれの年数は以下の通りです。
- 木造アパート:22年 ・鉄骨造の住宅(マンションなど):34年 ・RC造の住宅(マンションなど):47年 ・RC造テナントビル:50年
建物はそれぞれの法定耐用年数が満了すると帳簿上の価値(簿価)は無くなります。建物が使えなくなるというわけではなく、あくまでも帳簿上での評価です。
例えば木造アパートは毎年「22分の1ずつ」減価償却が進み、毎年「22分の1ずつ」経費を計上できることになります。この「22分の1ずつ」の数値は国税庁が償却率という形で少数化しているので、実際の経費計上ではこの償却率が用いられています。
なお、不動産の減価償却費は主に定額法で算出されるため、上記の表では一番左にある数値が適用されます。
〔参考:定額法とは〕
1-4.減価償却は不動産以外にも適用される
償却資産は不動産だけではありません。車両や備品、機械や装置、意外なところでは家畜である牛や馬にも減価償却が適用されます。
さまざまな資産に適用される減価償却ですが、最も法定耐用年数が長いのは不動産です。他の資産と比べ価格も高いため、不動産が最も減価償却による節税の恩恵を受けられる資産といえるでしょう。
1-5.減価償却が適用されるのは建物のみ
減価償却が適用されるのは不動産のうち建物部分のみで、土地は含まれません。なぜなら、建物は経年による劣化がありますが、土地は時間が経っても劣化することがなく減価償却の必要がないからです。
2.不動産投資における減価償却が節税になる2つの理由
不動産投資で、なぜ減価償却を活用すると節税になるのかを簡単に解説します。
2-1.減価償却費を計上すると利益を圧縮することができる
経年劣化によって失われた価値を減価償却費として「数値化」することにより、その分を「必要経費」として計上できます。必要経費は利益から差し引くことができるため、その分課税対象となる所得が減額され、税金が少なくなる=節税できることになります。
2-2.減価償却費の計上でキャッシュフローが多くなる
減価償却費を計上し、税金を少なくすることで得られる最も大きなメリットはキャッシュフローの増加です。税金として納めていた分が「浮く」ことになるため、その分投資家の「取り分」が増えます。
3.減価償却費の計算の基本
所有している不動産でどれだけの節税効果が得られるのかを知るために、減価償却費を計算するための基本事項を解説します。
3-1.当該建物の法定耐用年数を調べる
不動産投資の経費として減価償却費を計算するには、それぞれの建物の法定耐用年数から「1年でどれだけの減価償却費になるか」を知る必要があります。なぜなら、経費は年に一度の確定申告で計上するからです。
それぞれの所有物件に応じて前出の法定耐用年数を適用します。この法定耐用年数をベースに、1年あたりの償却率はRC造が0.022、木造は0.046が用いられています。
3-2.不動産における減価償却費の計算式
減価償却費の基本的な計算式は、以下の通りです。
建物の取得価格 × 毎年の償却率 =減価償却費
例えば建物部分が1億円のRC造マンションを購入した場合、1年あたりの減価償却費は0.022なので220万円となります。同価格の木造アパートであれば460万円となります。
3-3.中古物件の「簡便法」について
中古物件の場合は購入時点ですでに築年数が経過しているため、法定耐用年数までの期間が短くなります。すでに一部の耐用年数が過ぎてしまっている場合は新築と同じ計算方法が適用されません。
この場合に適用されるのが「簡便法」で、以下の計算式で耐用年数を算出します。
【築年数が法定耐用年数以内の場合の耐用年数計算式】
(法定耐用年数 - 築年数) + 築年数 × 20% = 耐用年数
【築年数が法定耐用年数を超えている場合の耐用年数計算式】
法定耐用年数 × 20% = 耐用年数
これらの計算式から、「これから消化する年数は100%、すでに消化した年数は20%として計算する」という考え方が読み取れます。この考え方は中古物件における減価償却費計算の基本となります。
4.不動産における減価償却費の計算例
ここでは具体的に、4つの物件やシチュエーションで減価償却費の計算例を見てみましょう。
4-1.新築一棟RC造マンションの場合
新築一棟マンションの減価償却費は、以下の計算式で求めることができます。
建物部分の取得価格 × 0.022 = 減価償却費
建物部分が1億5,000万円の新築一棟マンションを購入した場合の計算式は、以下の通りです。
1億5,000万円 × 0.022 =330万円
毎年330万円を、減価償却費として経費計上することができます。
なお、ここでは一棟マンションを想定して減価償却費を計算しましたが、区分マンションであっても計算方法は同じです。区分所有割合に応じた建物の取得価格を用いて、それを建物部分の取得価格に置き換えて計算をします。
4-2.新築木造アパートの場合
新築木造アパートの減価償却費は、以下の計算式で求めることができます。
建物部分の取得価格 × 0.046 = 減価償却費
建物部分が5,000万円の木造アパートの場合、計算式は以下のようになります。
5,000万円 × 0.046 = 230万円
毎年230万円を減価償却費として計上することができます。
4-3.中古物件・耐用年数以内の場合
中古物件を購入した場合の減価償却費を計算してみましょう。想定条件は「築10年・建物部分2,000万円の木造アパート」としています。
木造アパートの法定耐用年数は22年なので、築10年の物件は耐用年数以内です。耐用年数を求めるには以下の計算式が適用されます。
【築年数が法定耐用年数以内の場合の耐用年数計算式】
(法定耐用年数 - 築年数) + 築年数 × 20% = 耐用年数
上記条件の物件の場合、以下のようになります。
(22年 - 10年) + 10年 × 20% = 12年
この12年という耐用年数は、国税庁の償却率一覧によると0.084です。この償却率を当てはめて、減価償却費を求めます。
2,000万円 × 0.084 = 168万円
4-4.中古物件・耐用年数を超過している場合
中古木造アパートで築25年を想定してみます。すでに築年数が法定耐用年数を超えている場合は、以下の計算式になります。
【築年数が法定耐用年数を超えている場合の耐用年数計算式】
法定耐用年数 × 20% = 耐用年数
想定条件を当てはめます。
22年 × 20% = 4年4ヶ月
1年未満の端数については切り捨てるというルールがあります。それにならうと4年という計算結果になりました。耐用年数4年の償却率は0.25なので、計算式は以下のようになります。
2,000万円 × 0.25 = 500万円
5.減価償却で押さえておくべき2つの注意点
最後に、不動産投資の減価償却について押さえておくべき注意点について解説します。
5-1.不動産価格のうち「建物」の価値を知る方法
不動産の減価償却について「減価償却費を計上できるのは建物部分のみ」と説明しました。計算例においても「建物」の価格に償却率を掛けて減価償却費を求める方法をご紹介しました。不動産価格のうち「建物部分の価値」を知るためには、2つの方法があります。
- 売買契約書に記載されている建物部分の価格 ・固定資産税評価額
売買契約書が手元にない場合は固定資産税評価額から知ることができます。毎年1月1日の時点で不動産を所有している人に市町村から固定資産税課税明細書が届きます。ここに建物部分の価格が記載されているので、この価格を用いることができます。
この明細書も手元にない場合は、最寄りの役所で固定資産税評価証明書を取得すると、そこに建物部分の価格が記載されています。
5-2.売却時に多額の税金が発生する場合がある
実際に支出が発生しているわけではないのに経費と計上できる減価償却費は、不動産を活用した節税スキームとして広く知られています。しかし所得税の節税メリットがある一方で、売却時に別の税金が発生する可能性があることがあります。
仮に耐用年数が22年の新築アパートを1億円で購入し、建物評価が4,000万円だったとします。この4,000万円は帳簿上では22年後に無価値になります。しかし、実際に価値がゼロになったわけではなく、居住も可能でしょう。これを売却した時、7,000万円になり、その内、建物部分が2,000万円だったとします。
すでに簿価では無価値になっている建物部分が2,000万円で売れたとすると単純計算で売却益は2,000万円となり、この売却益に譲渡所得税が発生します。
譲渡所得税は税率が15%(これに住民税5%と復興特別所得税2.1%が加算される)となっています。看過できない金額といえるのではないでしょうか。もちろんそれまでに減価償却費による所得税の節税メリットを享受しているので、納税者にとってはどちらを取るべきか、どのタイミングで節税メリットを活用するべきかという選択になります。
なお、譲渡所得税は所有期間が5年以下だと税率が30%(これに住民税9%と復興特別所得税2.1%が加算される)になります。上記のアパートを5年所有して売却した場合、減価償却費の合計は、
4,000万円 × 0.046 × 5年 = 920万円
という計算結果になるため、総額で920万円を所得から控除することができますが、その一方で簿価が920万円分安くなった物件の売却となるため、売却益が発生しやすくなります。5年以下の売却益に対しては39%の短期譲渡所得税が掛かるため、節税メリットという観点でどちらが有利になるのかを十分精査する必要があります。
6.まとめ
不動産投資のメリットのひとつとして知られる減価償却について、基本的な考え方や計算方法などを解説しました。また減価償却の注意点についても説明しました。
「節税のつもりだったのにかえって損をしてしまった」ということが起きないよう、減価償却と譲渡所得税の関係についてしっかり理解し、不動産投資に役立てましょう。
文・YANUSY編集部/提供元・YANUSY
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