自称「日本一フリーランスに優しい税理士」の大河内薫さんに聞く、高年収フリーランスが知っておくべき税の知識。前編では確定申告に向けて再確認すべき経費計上の考え方や確定申告との向き合い方についてうかがった。
確定申告の基本を押さえたところで、特に高年収フリーランスが気になるのは税務調査ではないだろうか。過度に確定申告にプレッシャーを感じてしまうのも、税務調査への不安があるからかもしれない。
中編では、高年収フリーランスが知っておくべき税務調査の実情や、年収1000万円のフリーランスが気をつけるポイントを聞く。
(取材・宿木雪樹 / 写真・大口葉)
大河内薫さん
最新メディアやSNSでの発信が得意な税理士。Twitterフォロワー6.7万人超、YouTubeチャンネル登録者26万人超(1月29日時点)。日本では稀な芸術学部出身の税理士として、クリエイターやアーティストを熱烈支援。芸能・クリエイター特化型税理士事務所を経営。スーツ着ずに税知識をカジュアルに発信がモットーで「お堅い、まじめ」などの税理士イメージの打破を目指す。著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(SANCTUARY BOOKS)は14万部超のベストセラー。
高年収フリーランスが知っておくべき税務調査の判断基準
――税務調査と年収の関係性はありますか?
年収のみが税務調査の判断基準になっているわけではありません。たとえば、年収が前年度の何倍になれば税務調査が来るというルールはありません。
ただ、年収がある程度目立てば、税務調査の対象になる可能性は高くなります。たとえば東京港区で年収1000万円を稼ぐフリーランスはそう珍しくないでしょうが、地方で同額の年収を稼いでいるフリーランスは光るかもしれません。この場合は後者のほうが税務調査対象になりやすいでしょう。
――税務調査が来やすくなる条件はありますか?
一番税務調査が来やすいのは、売上が1000万円に満たないぎりぎりのラインの年収が続いている場合です。課税売上高が1000万円を超えると翌々年から消費税納税が義務付けられた事業者となるため、税務署側は調査する費用対効果が高いと考えます。また、フリーランス側が売上操作をしていると捉えられるかもしれません。
もちろん、偶然にこの条件が続いてしまった場合は税務調査に対してそれを証明すればよいだけですから、問題ではありません。
税務調査は恐くない―必要な対策は領収書の整理
――税務調査が来ないように対策することはできないのでしょうか?
そもそも税務調査の前提から説明させてください。確定申告した内容は、提出しただけではその正誤について誰も確認していません。これを数年後税務署側からの依頼を受けて納税者または顧問税理士が確認する作業が、税務調査です。
税務調査をマルサ(国税局査察部)と誤解している人も多いのですが、後者は脱税を意図していない納税者のところに突然やって来ることなどまずありません。税務調査の場合、きちんとアポイントを取り、双方合意の上で内容を調査しますから、そこまで恐れる対象ではないのです。
――とは言え、調査で誤りに気がつくこともありますよね?
誤りが見つかった場合はその内容に応じたペナルティがありますが、そのペナルティ分を加算した形で納税すれば良いです。もちろんミスなく確定申告をし、税務調査でそれが確認できるのがベストですが、確定申告している側も人間ですから間違えてしまうこともあります。ミスが見つかったから犯罪者というわけではないことを心に留めておいていただければと思います。
――来るべき税務調査の日のために、事前に準備できることは何ですか?
過去の領収書をスムーズに索引できるようにしておくことです。資料が美しいほうが、調査側の第一印象は良いでしょう。
税務調査では、元帳を見ながら過去数年分の取引を確認し、そのなかから指定の領収書を提示するよう求められます。
すぐに出せるのがベストですが、調査中に探すことができれば大丈夫です。調査はだいたい1~2日。数時間内で見つかるようにするのが合格ラインでしょうか。一番避けたいのは元帳に記載のあるものの領収書が見つからない事態ですね。
自分が索引しやすいよう整理し、月ごと、案件ごとに領収書がまとまっていると対応しやすいでしょう。ただ完璧にやろうとするとなかなか難しくて手が出ないでしょうから、まずはできるところから、やりやすい方法で取り組むことを心がけてください。