「三つのアピール」でキャリアを切り拓こう
私たち日本人ビジネスパーソンは優秀。グローバルエリートとの差はほんのわずか──。ゴールドマン・サックス、マッキンゼーにて活躍した戸塚隆将氏は、近著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』の中でそう断言している。では、そのわずかの差とは何か? 最終回の今回は、キャリア観に関する違いについて解説していただく。
※本稿は、戸塚隆将著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
受け身形=主体性がない
グローバルファームへの転職を希望する場合、英文レジュメ(英文履歴書)の提出を求められます。日本のビジネスパーソンの方から「履歴書を見てもらえませんか」と個人的にアドバイスを求められ、助言をする機会も少なくありません。
そのときに感じるのは、「受動態で書かれたものが圧倒的に多い」ということです。英文レジュメでは、「受け身形は主体性がない」と受け取られてしまいます。控えめで謙虚な印象を与えるどころか、評価を下げてしまうことにもなりかねません。
例を見てみましょう。
I was transferred from the marketing department to the finance department.
(マーケティング部から財務部へ異動させられました)
I was relocated from the Tokyo office to the Singapore office.
(東京オフィスからシンガポールオフィスに転勤させられました)
I was appointed as the leader of the planning group.
(企画部リーダーに任命されました)
このように、受動態で書かれている文章が散見されるのです。
日本人がつい「受動態」を使ってしまう理由
では、なぜ私たちは、つい受動態で書いてしまうのでしょうか。
転職希望者に話を聞いてみると、大きく二つの理由があることがわかりました。
まず、本人が希望を出す場合もあるにせよ、最終的な異動や転勤は人事部や上司の判断で決まっているため、そのことを素直に書いている、ということです。
もう一つは、こうした異動や役職就任を第三者が決定したこと自体にプライドを持っているケースが挙げられます。ただの異動や役職就任ではなく、あまたいる同僚の中から「自分が選抜された」という意識を強く持っていることが多いのです。
履歴書は必ず「能動態」で書く
ところが、英語では、仮に受動態を使っても、「評価された」「周りから推された」といった意味は伝わりません。それどころか、外国人の目から見ると、受動態の文章は「他人に振り回されている」感じを強く与えるので、先述したように評価を下げてしまいかねません。
そのため、英文レジュメへのアドバイスを求めてきた人には、「能動態」への書き直しをすすめています。たとえば、次のようにです。
I joined the finance department.
(財務部に異動しました)
I moved from the Tokyo office to the Singapore office.
(東京オフィスからシンガポールオフィスに転勤しました)
I became the leader of the planning group.
(企画部リーダーになりました)
この表現だと、「私が」自分の意志で移った、役目を引き受けたという積極的かつ前向きで、キャリアアップした印象を読み手に与えることができます。
英文レジュメを書くときには、「命じられた」「選抜された」プロセスを気にしすぎる必要はありません。人事部や上司の任命はあったにせよ、最終的には自分で決断して新しい職務についたはずです。その事実のみを書くことがポイントです。
「置かれた場所で咲く」ことも大事だが……
英文レジュメの必要性の有無にかかわらず、「能動態」の意識、すなわち「キャリアは与えられるものではなく、積極的に自らがデザインするものである」という意識を持つことは、どのような職場環境においても常に求められていることです。
会社というのは、当然ながらチームワークが重視され、皆で成果を出すことを求められる組織です。そのため、優秀な人材だからといって自分の思いどおりの働き方ができるとは限りません。時には意に沿わない異動をすることになったり、自分には荷が重いと思われる役割を果たさなければならなかったりすることもあるでしょう。
私たちが育った日本の社会では、与えられた場所で自分の職務を全うすることの大切さを学びます。私は、そういった日本人の美徳が私たちの強みの一つであり、今後も大切に引き継いでいくべき価値観であると考えています。
受け身ではいい仕事は回ってこない
一方で、多国籍、多人種、育った文化やバックグラウンドの異なる人材の集まるグローバルな環境では、自己主張の強い同僚も多く、前述の考え方だけに固執していると、自分の力を最大限に発揮できる仕事が回ってこない可能性が多々あります。
私たちには能力もやる気もあり、置かれた場所で最大限のパフォーマンスを発揮することもできるのに、戦う場を与えられないのは、実にもったいないことです。
せっかくですから、与えられた場所、命じられた役割で努力するだけでなく、自分からやりたい仕事にアサインされるよう、積極的に働きかける姿勢も身につけるべきでしょう。
自分で働きかけて自らキャリアをデザインしていく思考と行動力は、必須と言っても良いでしょう。
マッキンゼーでは皆、積極的に「自分を売り込む」
では、グローバルな環境で働く人々は、この「働きかけ」を具体的にどのように実践しているのでしょうか。
ここでは、マッキンゼー時代に同僚や自分自身が実践していたいくつかの方法を紹介しましょう。といっても、難しいことではありません。誰にでも真似できる、ちょっとしたことばかりです。
マッキンゼーでは3ヶ月単位でプロジェクトが回っていくことが多く、プロジェクトの終盤には次のプロジェクトの情報が耳に入ってくるようになります。
このとき、クライアントとのパイプ役を務めるプロジェクトリーダーたちに事前アピールをすることが、マッキンゼーではよく見られる光景でした。皆、希望のプロジェクトに入れるよう積極的に自分を売り込むのです。
次のプロジェクトの責任者は、プロジェクトが正式スタートする前から考えを巡らせています。どんなチームが最善か、そのためには誰に入ってもらうのがいいのか。プロジェクトが成功するよう、前々からスタッフ構成を考えています。今のプロジェクトが終わってから一から考えていては時間が足りないからです。
「声がかかる人」の共通点
そんな責任者の立場を想像してみれば、どのような人物にメンバーになってほしいかわかるのではないでしょうか。
有能だけれども当該プロジェクトに興味を示さない人よりは、参加したいとアピールしてくれる積極的な人、わずかに能力や経験が及ばなくともやる気と情熱にあふれている人……。そんな人とともに働きたいと思うのではないでしょうか。
私はマッキンゼーに入社当初は、以前ゴールドマンで買収案件のアドバイザリー業務にたずさわった経験を活かし、まずは財務案件、買収案件のプロジェクトにアサインされるようアピールしました。
その後、金融に詳しいことを強みとして金融機関の戦略案件や組織案件も担当できるようにキーパーソンに働きかけ、少しずつコンサルティングの幅を広げていった経験があります。
プロジェクトにアサインされる要素としての絶対条件はスキルと情熱の二つです。そして、これらを周囲にアピールするためのポイントは三つあります。
「三つのアピール」を実践する
1 自分の存在を知らせるために「顔を売る」
社内には名前と顔の一致しない人たちが数多くいます。プロジェクトメンバーとして選ばれるためには、まず自分の存在を相手に知ってもらうことが欠かせません。ともに仕事をしたい人のいる部署に顔を出す、まだ一緒に働いたことのない人をランチに誘って情報交換するなどしてみましょう。
私は海外案件を手がけたいと思ったとき、海外オフィスの同僚たちが出席するカンファレンスに出て発言したり、その後一緒に食事に行ったりして親しくなりました。まずは「その他大勢」から際立つために、顔を売ることが大切です。
2 自分の持つスキル・経験を伝える「自分レジュメ」を作成
プロジェクトにアサインされても、チームに貢献できなければ意味がありません。自分の持っているスキルや経験を伝える工夫が当然必要です。
私は社内用の「自分レジュメ」を作っていました。過去に参加したプロジェクトと、そこで果たした自分の役割が一覧できるものを用意していたのです。一度まとめておけば口頭で簡潔に伝えられますし、必要に応じてメールで送ることもできます。
自分の得意な業務・分野は何か、今ならどのような仕事でチームに貢献できるのか。これらを明確にしておかなければ、人に伝えることはできません。
自分のスキルや経験を棚卸しする意味も込めて、「自分レジュメ」を作成しておくことをおすすめします。定期的なアップデートも忘れないことです。
3 情熱・気持ちを率直に伝える
最後に大切なのは、やはり情熱です。先ほども述べたように、プロジェクトを取り仕切る立場からいえば、少々経験が浅くともやる気のある人、積極的な人をプロジェクトメンバーに加えたいと思うものです。遠慮する必要はありません。責任者やキーパーソンのところへ何度も足を運び、プロジェクトにかける思いを率直に伝えましょう。
思いどおりにいかなくても腐らない
「キャリアは自分で描いていくもの」という意識で積極的に動くことが大切です。ただし、毎回自分の思いどおりにいくとは限りません。そうしたときに中長期的な目標を持ちながら、目の前に与えられた仕事に100%集中することが大切です。
あなたの情熱は誰かが見ていてくれていますし、スキルも別の場で役立てられる日がきっとやってきます。これは日本でも世界でも変わりません。
文・戸塚隆将(とつか・たかまさ)
ベリタス代表取締役
1974年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス勤務後、ハーバード経営大学院(HBS)でMBA取得。マッキンゼーを経て、2007年、ベリタス株式会社(旧シーネクスト・パートナーズ株式会社)を設立、代表取締役に就任。 同社にて企業のグローバル人材開発を支援するほか、HBSのケーススタディ教材を活用したプロフェッショナル英語習得プログラム「ベリタスイングリッシュ」を主宰。グローバル人材を輩出し続けている。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(朝日新聞出版)等がある。
(『THE21オンライン』2019年05月27日 公開)
提供元・THE21オンライン
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