新型コロナは家電量販店市場にも大きな影響をもたらした。ふたを開けてみれば、好調だったのだが、このような状況になることを事前に予想していた家電量販企業があったことは、あまり知られていない。家電量販市場のこの一年を上、下の2回で振り返る。
 

BCN+R
新型コロナ禍でも業績が好調だったケースホールディングス(写真=BCN+Rより引用)

空前のPC駆け込み需要から一転

 新型コロナウイルス感染症の対策で家電量販店が最初に影響を受けたのは、安倍晋三首相(当時)が2020年2月27日に発表した全国の小・中・高等学校の臨時休校要請だった。それを受け、各社で営業時間を短縮する動きが広がった。

 家電業界ではそれまで、1月14日のWindows 7のサポート終了に伴う空前のPCの駆け込み需要で沸いていた。全国の主要家電量販店・ネットショップからPOSデータを通じてスマートフォンや4Kテレビなどの販売台数・金額データを毎日収集・集計している「BCNランキング」によると、1月3週のPC(デスクトップとノートの合算)の販売台数は、前年同期比209.1%を記録した。その盛り上がりも一息つき、次の春商戦に向けて対策を練っていた矢先の政府による全国一斉休校の発表だった。
 

BCN+R
PCは1月3週に前年同期比209.1%を記録した(写真=BCN+Rより引用)

 しかし周知のとおり、事態はその程度では収まらず、第一波の到来で4月7日に緊急事態宣言が発令された。ビックカメラが12店舗(グループ24店舗)で1カ月の休業、ヨドバシカメラが16店舗で一時休業に追い込まれた。家電量販店は休業要請の対象業種ではなかったものの、自ら休業を決断せざるを得ず、全国展開する郊外の家電量販店でも時短営業を余儀なくされた。

コロナの変化を予想した、ケーズデンキの秀逸レポート

 5月の決算発表シーズンに入ったが、営業ができないという、かつて経験したことのない事態に襲われ、家電業界に限らず国内の多くの企業が2021年3月期の業績予想を「合理的な算定が困難なため未定」とした。そうした中、国内企業でいち早く現状の分析と予想を発表したのがケーズホールディングス(ケーズHD)だった。IRレポートには、新型コロナの影響やリスク、会社を取り巻く環境と対応がわかりやすく整理されていた。

 このレポートが秀逸だったのが、不透明な先行きのリスクに触れるとともに、必ずしもマイナス面だけではないことを当初から指摘していたことだ。家電製品は底堅い買い替え需要に支えられており、景気に比較的左右されにくい点や、家電製品が生活必需品であること、また都市部の外出自粛が強まると首都近郊の昼間の人口が増える点などが挙げられていた。

 例えば、夏の暑い部屋でエアコンなしで生活することはかえって危険だし、自粛生活で食品をストックする冷蔵庫のニーズはなくなったりはしない。むしろ、テレワーク需要でノートPCやウェブカメラ、Wi-Fiルータなど新しい需要が発生すると指摘した。確かに外出する機会が減り、理美容などの身だしなみ家電の需要は減るかもしれないが、家にいる時間が長くなることで、調理家電や洗濯機、健康機器のニーズは高まると予想したのだ。繰り返しになるが、このレポートは、各社が今年度の決算予想の算定が困難であるとしていた5月中旬に発表されたものであるところに価値がある。
 

BCN+R
ケーズホールディングスが5月中旬に発表したレポート(写真=BCN+Rより引用)