(本記事は、高田 敦史の著書『会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール』集英社の中から一部を抜粋・編集しています)
今の会社と退職後も契約できそうかを探る
~双方がうれしい外注契約~
独立後に、今の会社と外注契約を結んで仕事することができるかを会社に在籍している間に探っておきたい。これは、今後のフリーランスの働き方のトレンドになるのではないかと私は考えている。
その理由は、高齢社員を65歳まで雇用し続けるよりは、「仕事内容も社内事情もよく分かっている元社員」として外注する方が会社側にもメリットがあるからだ。個人としてのメリットは言うまでもない。元の会社と契約ができれば独立直後から安定収入が得られるし、安心して新規顧客の開拓にも臨める。退職を考え始めたら、信頼できる社内関係者と相談してみるといいだろう。
広告業界では、社員が独立したのちも同じ仕事を外注先としてやっている例は珍しくない。私のロールモデルとして紹介した元広告代理店勤務のY氏もそのスタイルで働いていた。旧来的な企業が「会社を辞めた人に仕事を外注する」という例はまだないかもしれないが、内製化からアウトソーシングへの流れが進めば、このようなケースは今後増えていくだろう。雇用の流動化が進む中では、一から人を育てるより経験があるプロに外注する方が合理的だからだ。
取引先と契約できそうかを探る
~最も身近な顧客候補~
次に、取引先の会社と独立後に仕事ができないかを探ってみたい。特にあなたの会社が「発注元」である場合には十分に可能性があると思う。取引先の方々がまず知りたいのはいわゆる社内情報だろう。もちろん社外秘の情報は絶対に口外してはならないし、最悪の場合は会社から訴えられる場合もある。
では、どんな情報に価値があるのか?あなた自身がたいした意味を感じていない情報も、実は社外の人にとっては貴重なものであることが多いのだ。
例えば
・各部署の具体的な業務内容は?
取引先は窓口部署の業務は分かっていても、その他の関係部署の業務がよく分かっていないことが多い。仕事によっては、窓口部署以外へのアプローチが有効な場合もあり、知り合いを紹介するだけでも十分に価値がある。
・決定権者は誰か?
社内で意思決定のカギを握っているのは誰か。それが分かればその人との関係を深めるために会食などをアレンジしてほしいという話になることも多い。
・担当役員の趣味は?
つまらないことだが、役員同士でつながりを持ちたいときには、この手の情報も役に立つ。
これらは社内にいたら誰でも知っているような情報だが、外では意外な価値を持つことがある。また、取引先が前職の会社に提案する際の書類チェックなども重宝がられるケースがあるだろう。
ただし、この手の仕事には賞味期限があることも認識しておかないといけない。退社して数年も経つと、人事異動や組織変更などがあって、情報は古くなってしまうからだ。
退社して数年経っても、継続して元取引先から仕事を受注したいなら、(社内情報だけでなく)業界全般の情報を常にフォローし、「その分野のプロ」でいつづけることが必要だ。私の場合は、自動車業界の情報には常に気を配り、有識者と会食の機会を設けて話を聞くことをつづけている。ビジネススクールでは自動車業界関係の論文も書いた。最近の自動車業界は大きな変革期にあると言われており、意見を聞かれることも多いからだ。
結果として、私のトヨタ自動車社内の情報は徐々に古くなっているが、自動車業界関連の知識は現職時代より豊かになっている。そのおかげで自動車会社の担当者が集まる勉強会のアドバイザーのような仕事をいただくこともできた。
前職の会社のライバル会社との仕事も選択肢の一つにはなる。私も他の自動車会社でマーケティングの講義を行ったことがある。退職時に結ぶ秘密保持契約に反しない範囲であれば問題はないのだろうが、気をつけたいのは元の会社との関係だ。あらぬ噂を立てられて「出入り禁止」となってしまうのは避けたいので、仕事の内容について吟味した上で慎重な判断が求められるだろう。
お金の相談ができる人を探す
~経営の仕組みを教えてもらう~
独立に際して誰もが一番気になるのが「お金」のことだろう。売り上げをどのように上げていくかは次章で述べるが、まず押さえておきたいのは支出、特に社会保険や税金のことだ。
例えば、独立して個人事業主になると基本は国民健康保険に加入することになる。ただし、退職後も企業の健康保険組合に2年間の任意継続ができる。収入が一定額以上の場合はその方が有利だ。3年目以降は国民健康保険に移行しなければならないが支払金額が月額8万円程度になる場合もある。
税金についても、サラリーマンはあまり深く考えたことのない人が多い。考えたところで取られるものは取られるからだ。しかし、個人事業主になると基本的な税金の構造についてもよく知っておかなければならない。
個人事業主が支払う税金は所得税(税率は所得により変動)、住民税(収入の約10%)、事業税(収入の約3~5%)となるが、それぞれに控除(基礎控除、事業主控除)が適用される。
税金を考えるときにサラリーマン時代と大きく違うのは「経費」が認められることだ。サラリーマンにも給与所得控除があるが、それ以外の控除はなかなか認められない。一方、個人事業主はビジネスを行う際に必要な費用(事務所経費、交通費、交際費等)は経費として認められ、所得から控除される。特に事務所経費についてはきちんと理解しておきたい。自宅を事務所に使う場合は、マンションの減価償却費、ローンの利子、光熱費等は経費として認められるし、車の購入費用、修理代、車検費用なども必要に応じて経費として計上することができる。
ここに記したのはあくまでも一例である。税金の話はややこしいので、まずは自分で勉強し、専門家のサポートを受けよう。私の場合は3つの方法でなんとか攻略した。
①とにかく本を読む
個人事業主向けの税金の本はたくさん出版されている。とにかくやさしそうなものから順番に3冊程度、購入して読んでみよう。
②個人事業主の知り合いに聞く
本を読んで一定の知識が身につけば、知り合いの個人事業主に、疑問に思っていることを聞いてみる。自分たちも苦労してきたから、きっと丁寧に教えてくれるはずだ。
③人脈をたどって税理士または公認会計士を探す
私の場合は前述のロールモデルであるW氏が公認会計士でもあったので助けてもらった。ただし、確定申告までお願いするとしたら、相応の報酬を支払って仕事としてお願いしよう。数字に強ければ自分でできないわけではないが、本業の時間を確保することの方が大事。税金のことは専門家へのアウトソーシングを活用するのが賢明だ。