1990年代に経営危機に陥ったアップルをスティーブ・ジョブズが救った戦略は、アメリカ国内の工場をすべて売却し、研究開発・設計だけをカリフォルニアでやり、生産をすべてアジアでやるオフショアリングだった。

それによってアップルの業績は奇蹟的に回復し、大ヒット商品iPhoneを生み出した。それを逆転することは不可能である。もし組み立てだけアメリカでやって関税を逃れても、その部品はすべて輸入品なのでコストは1.5倍になる。

このようにグローバリゼーションはアジアに多くの雇用を生み出した。かつて最貧国だった中国の労働者は豊かになり、世界全体が豊かになり、先進国と途上国の所得格差は縮まった。

だがそれによってアメリカの単純労働者の賃金は中国に近づき、国内の格差は拡大した。これは要素価格の均等化という19世紀から知られている法則である。水が高いところから低いところに流れるように、賃金の高い国から低い国に生産が移動し、それは世界全体の単位労働コストが同じになるまで止まらない。

各国の単位労働コスト(2015年=100)

実は同じ現象が日本でも起こった。2010年代に世界最大の海外直接投資をおこなったのは日本企業だった。それが日本でも製造業の雇用が失われ、実質賃金が下がった原因である。これを逆転することは不可能だし、望ましくもない。

新自由主義の次の二つの道

グローバリゼーションの弊害をなくす方法は二つある:一つはナバロのような重商主義でグローバリゼーションを止めることだ。大統領選挙で関税を主張していたトランプをアメリカ人が選んだのはこの道だったが、それはアメリカ人も不幸にしてしまう。彼らの豊かな生活はグローバリゼーションで築かれたからだ。

もう一つはグローバリゼーションを進めながら、事後的に政府が所得再分配をおこなうことだ。これには累進所得税や社会保障などいろいろな方法があるが、巨大な既得権がからんで進まない。