株式市場では、専門的知見をもたない素人の個人投資家が重要な役割を演じている。主流派の市場理論においては、株式市場には、専門的知見の有無、経験の深度、行動動機などについて、様々に異なる投資家がいて、好き勝手に取引するからこそ、価格の公正性が保証されるとされていて、故に、素人の個人投資家も含めた多様な市場参加者が必要だと考えられているからだ。

この理論を徹底すれば、専門家の価値評価に基づいて価格が形成されるのではなく、市場に現にある価格が価値を示していることになるから、価値評価にかかわる専門的知見は不要になる。実際、そうした理論的背景のもとに、パッシブ運用、即ち、インデクス運用が普及拡大しているわけである。

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これに対して、反主流派の市場理論は、専門的知見を有する投資家間の主観的評価の平均として、価格の基礎が形成されており、専門的知見をもたない個人投資家等は、その投機的、あるいは心理的行動により、価格形成の攪乱要因になっていて、この価格の攪乱は、アクティブ運用の機会、即ち、専門的知見をもった投資家に、より安く買い、より高く売る機会を与えていると考えている。

さて、株式の価値に関する完全情報は発行体にあるから、発行体を代理する投資銀行、即ち、証券会社の引受部門は圧倒的な情報の優越を確保する。これに対抗し得るのは、最高度の専門的知見をもつ投資家、とりわけ顧客を代理して投資を行う投資運用業者に限られるから、反主流派の市場理論において、その役割は極めて重要である。

投資運用業者が顧客の信頼に応えて投資の技術を磨けば、投資信託の品質の改善を通じて、個人の資産形成に資するばかりか、産業界の資金調達の高度化を実現して、経済の持続的成長にも貢献できるわけだから、投資運用業の健全なる発展が金融庁の行政目的になるのは、当然のことなのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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