体温があって、外界の揺らぎをもろに受ける、いわゆる生々しい“温かみ”を持つ存在として描かれています。

それにもかかわらず、これまでの実験が狙ってきたのは温度や雑音を極限まで下げた“冷たい猫”でした。

これは仕方のないことでもあります。

量子の干渉現象はちょっとした熱エネルギーや環境の乱れですぐに壊れてしまうというのが、長い間の定説だったからです。

あたかも冷凍庫の扉をうっかり開けっぱなしにするとアイスクリームがすぐ溶けてしまうように、ちょっとでも熱が入り込むと量子の面白さが台無しになる――誰もがそう信じていました。

ところが近年、わざわざ冷やしこまなくとも、熱や雑音を抱えたままでも量子力学特有の干渉を引き起こせるはずだという議論が、研究者の間で盛んに交わされるようになりました。 

そこで今回の研究では、実験装置そのものは約30ミリケルビンという極低温に保ちながらも、外部から雑音を注入して見かけ上“熱い”シュレディンガーの猫を生成できるか調べることにしました。

「熱いシュレーディンガーの猫」生成プロジェクト

熱いシュレーディンガーの猫を作ることに成功
熱いシュレーディンガーの猫を作ることに成功 / FIG1Aは、いわゆる「冷たい」シュレーディンガーの猫の状態を示しています。 ここでは、ほぼ純粋な(低温の)状態から作られた猫が、2つのはっきり分かれた領域(位相空間上の2つのピーク)と、その間に見られる明確な干渉パターン(正負の波)が特徴的に表れています。 FIG1BとFIG1Cは、初期状態が熱的な混合状態、つまり「熱い」状態から作られたシュレーディンガーの猫を示しています。この図から熱い状態でも量子の重ね合わせ状態が成立し、非古典的な干渉効果がしっかりと観測できることがわかります(※シュレーディンガーの猫が出現した最初は極低温の30ミリケルビンでしたが実験ではその30倍にあたる1.8ケルビンまで加熱しても大丈夫であることが示されています)。/Credit:Ian Yang et al . Science Advances (2025)