(※実際にはさまざまな形態の数式が存在しますが、ここではわかりやすく代表的なものを選びました)

つまり高度な物理学における「粒子」とは、ビー玉のような球形の物体の形状を定義するものではなく、数式が粒子っぽい形をしていることを意味しているのです。

そのためランダウのフェルミ液体理論が提唱する「ケーブルの中を流れる電子は互いに相互作用を及ぼし合う液体のような塊になって流れていく準粒子である」という部分は電子の存在を否定するのではなく、電子のより正確な流れ方を記述するための言葉であることがわかるかと思います。

ただそうなると「中学レベルの話は嘘だったのか?」と疑う人もいるでしょうが、大丈夫です。

フェルミ液体理論は奇跡的とも言える理論であり、電子たちの群れ(準粒子)の質量項を少し調整するだけで、電流を電子の動きとして書き直すことができるのです。

物理学においては、真実をそのままの形で使用するのはしばしば困難であるため「さしあたりこのように扱っても問題ないだろう」という状態(理解)で、話が進むことがよくあります。

特に相対性理論や量子力学の解説書では、このような妥協は至る場所でみられます。

ランダウのフェルミ液体理論は古典的な理解を脅かすものではなく、それを量子力学的な視点から補完し、拡張するものと言えます。

つまり中学で習うケーブルの中を個々の電子が流れていく図も、厳密ではありませんが、問題のない解釈と言えます。

さて、ここまでの内容はどの教科書(物理学)にも記されているものです。

以降のページでは、この教科書レベルの常識が、近年の発見によって崩れ去っていく様子を描いていきます。

電気に関する「教科書レベルの常識」が書き換わりつつある

金属内部で「普通の電子」ではない何かが電気を運んでいたと判明!
金属内部で「普通の電子」ではない何かが電気を運んでいたと判明! / Credit:Canva

超伝導実験はしばしば、絶対零度に近い環境で行われます。

多くの人々は、冷やされて霜がついた超伝導体が空中に浮かんでいる様子を見たことがあるでしょう。