そこでDNAの転写、つまり“新しいmRNAをつくる作業”をブロックすることで、NIP5;1の生成そのものを止める——いわば細胞全体に「作業ストップ!」と号令をかける役目を果たしているのです。

このメカニズムは、工場ラインの例えで言うと、途中で不良品を廃棄するだけでなく、その廃棄をきっかけに「これ以上の生産をやめよう」という全体指令を発するイメージに近いでしょう。

mRNAは使われ終わったら消えていくはずなのに、その“消える瞬間”を逆手にとって遺伝子の転写段階まで抑え込むわけです。

「mRNA分解=ただの廃棄処分」という従来の見方を覆す、大きな発見と言えます。

分解は終わりじゃない:転写のスイッチを握る“mRNAの切れ端”

今回の結果からわかるのは、“mRNAが壊される”という現象自体が細胞内の重要な指令発信に組み込まれている、という新しい視点です。

普通、分解は使い終わった分子を処分するだけの工程だと考えがちですが、NIP5;1の場合はむしろ分解のプロセスこそが「転写を止める」合図になっている可能性が見えてきました。

こうした“分解と制御の表裏一体”という仕組みは、植物が環境変化に敏感に対応するための合理的な戦略の一つとも考えられます。

ホウ素が急激に増えてしまったとき、あふれる前にNIP5;1 mRNAを切り捨てるだけでなく、その断片からも「もう作らなくていい」というシグナルを発して遺伝子の転写を強力にダウンさせるわけです。

さらに、このような分解によるフィードバックはNIP5;1にとどまらず、ほかの遺伝子や生物系でも起こる可能性が指摘されています。

RNA干渉(RNAi)の仕組みを想起させる点が多く、応用すればウイルスや病原体の遺伝子発現を抑える研究にもつながるかもしれません。

ただし、今回の研究が直接ほかの遺伝子にも当てはまるのかはまだ不確定で、今後の検証が待たれるところです。