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近年、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化が推進される中で、太陽光や風力の出力変動に対応するために「火力や原子力をバックアップ電源として使えばいい」という言説が頻繁に見られるようになった。
この「バックアップ」という言葉を用いつつ行う議論には、重大な誤解が含まれていると感ずることが多い。以下に、その技術的実態と誤認識を整理する。
「バックアップ電源」という言葉の誤用
本来「バックアップ電源」とは、停電や故障などの非常時に一時的に代替する電源を指す。しかし再エネ文脈では、「再エネの変動を日常的に補完する主力電源」という意味で使われており、本来の意味とは大きくかけ離れている。
この言葉の誤用によって、火力や原子力がまるで「コンセントのスイッチかのように」、簡単にオン・オフできるものと誤認されている御仁も見受けられる。
プロセス設備における運転の基本原則
火力発電(特にIGCCなどの複雑なプロセス系)や原子力発電は、いずれも「定常運転を基本」として設計されている。一例として、
- 運転は年間1サイクル(スタートアップとシャットダウンは1回ずつ)、そして定期メンテナンス
- スタートアップ/シャットダウンには数時間〜数日を要する
- 頻繁な起動・停止は熱応力や摩耗を引き起こし、設備寿命を縮める
- ターンダウン(出力低下)にも限界があり、効率が著しく低下する
通常、ガス化炉などの機器の塔径を決めるのはガスなどの流体の線速度で、機器の容積(径が決まっているから、塔や機器の長さ)を決定するのが処理量である。
たとえば50%出力で運転する場合、設備に供給されるガス量が定格の設計条件からかなり逸脱するため、線速度などが小さくなり、塔内の流体の流れが不安定になるなどして、エネルギー効率や反応特性が大きく悪化する。
原子力発電の特性と限界
原子力発電は、特に長期間の安定出力が求められるベースロード電源である。
- 出力変動や日替わり運転に適していない
- 臨界管理、崩壊熱の除去、安全措置など、起動停止には高度な作業が必要
- 欧州の一部ではロードフォロー運転がなされているが、これは例外的な設計と運用体制の成果であり、一般化できるものではない