ある日、目を覚ますと、周りの人が誰かわからず、慣れ親しんだ母国語も忘れてしまったとしたら…?
これは2022年にオランダで実際に報告された恐ろしい症例です。
同国のマーストリヒト大学医療センター(MUMC)の研究チームによると、膝の手術を受けた17歳のオランダ人少年が、術後に目を覚ますと、両親が誰かわからず、母国語も忘れてしまう現象が起きたという。
さらに少年は学校の授業でしか使ったことのない英語しか話さず、「自分は今、アメリカにいるのだ」と信じ込んでいたのです。
少年はその後、どうなってしまったのでしょうか?
症例の報告は2022年1月22日付で医学雑誌『Journal of Medical Case Reports』に掲載されています。
目次
- 術後に母国語を忘れてしまう奇妙な症例
- なぜ麻酔で外国語症候群が起こったのか、原因不明
術後に母国語を忘れてしまう奇妙な症例
当時17歳の少年はサッカーをしていた最中に膝を怪我してしまい、手術を受けることになりました。
全身麻酔による手術は無事に成功しましたが、少年が翌日に目を覚ますと、実に奇妙な事態が起こったのです。
意識を取り戻した少年が最初に発した言葉はなんと母国語のオランダ語ではなく、英語でした。
しかもその英語は、彼が学校の授業でしか使ったことがなく、普段から第2外国語として話すことはありませんでした。
少年はオランダ語をまったく理解していないようで、さらに両親のことも認識できず、加えて「自分は今、アメリカのユタ州にいるのだ」と堅く信じ込んでいたのです。

医師によると、この不思議な症状は「外国語症候群(Foreign Language Syndrome:FLS)」と呼ばれる、世界でも報告例が非常に少ない稀な症例だといいます。
FLSとは突如として別の言語や外国語のようなアクセントで話し始める症状です。
FLSの報告はその時点で世界にわずか8件しかなく、10代での発症例は初めてでした。