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顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
2025年4月はベトナム戦争が完全に終わってからちょうど50周年となる。世界を揺るがせたあの戦争が当時の南ベトナムの首都のサイゴン陥落によって終結したのは正確には1975年4月30日だった。今年はその日にアメリカの首都ワシントンでベトナム戦争終結から半世紀の追悼と記念の大集会が予定されている。
ではベトナム戦争とはなんだったのか。その教訓とはなにか。戦争の最終場面を目撃し、報道したジャーナリストとして報告したい。
ベトナム戦争と簡単に評しても、第二次大戦後すぐに始まったベトナム独立勢力とフランスとの戦いまでもが含まれる。だが現代の世界で一般にベトナム戦争と呼ぶのはアメリカが直接に軍事介入してからアメリカに支援された南ベトナム(ベトナム共和国)が壊滅するまでの約10年間の戦争を指す。つまり1965年3月にアメリカ海兵隊が南ベトナム中部のダナンに上陸した時点から、1975年4月に南ベトナム政府が滅びた時点までの戦争である。
この戦争は北ベトナムの革命勢力が南の同胞の支援を得て、アメリカ軍を打ち破ったという解釈が日本ではなお多いようだが、これは不正確である。現実にはアメリカ軍はサイゴン陥落の2年も前にベトナムからは完全に撤退していた。最後の2年間は南ベトナムと北ベトナムの戦いだった。その内戦に北ベトナムが完勝したのだ。
さていまアメリカ各地に在住するベトナム人、厳密にはベトナム系アメリカ人は総計で240万人にも及ぶ。その半数はアメリカ生まれだが、当初のベトナム人の主体は南ベトナムの政府や軍の関係者だった。だから自分たちの国家や社会を滅ぼした北ベトナム側には敵意を抱いていた。その敵意は北ベトナムが全土を統一し、国名も共産主義を前面に出した「ベトナム社会主義共和国」と変えてからも、ほとんど変わらなかった。
具体例としては首都ワシントン近郊のベトナム人居住区には「エデンセンター」という巨大なショッピングセンターがあり、その中心の広場にはいまはもう存在しない南ベトナムの国旗がいまでも毎日、掲げられている。