今回の成果が画期的なのは、人間の感情や行動における遺伝と環境の関係を、“音楽”という身近で多彩な刺激を通して具体的に示した点にあります。

これまで「楽しむ力」は測りにくいとされてきましたが、BMRQのようなツールを活用して「音楽を楽しむ度合い」を数値化し、それを双子研究で裏付けることで、単なる好みや素質を超えた仕組みが見えてきたのです。

これは音楽教育や音楽療法への応用などにも大きな可能性を開きます。

たとえば、どのような環境要因が音楽をより楽しめるようになるかを探ったり、逆に音楽を使って脳の報酬系をうまく刺激し、精神的ストレスを緩和したりするアプローチにもつながるかもしれません。

まだ解明されていない部分も多く残ります。

たとえば、文化的背景や言語が異なる地域で同様の研究をしたらどうなるのか。

子どもの頃の音楽経験がどのくらい長期的な影響を及ぼすのか。

あるいは、遺伝子レベルで見たときに“音楽を楽しむ力”に関わる具体的な遺伝子配列が存在するのか――興味は尽きません。

とはいえ、すでに明らかになったのは「同じ曲を聴いても、人によって心の揺れ方が違うのはあたりまえ。

そしてその一部は、生まれもったDNAによるところが大きい」という事実です。

考えてみれば、私たちが音楽に求めるのは、ただ耳に心地よいだけでなく、“他人と共感する瞬間”や“自分の心を動かしてくれる刺激”といった多様な要素です。

今回の研究は、それらをひとまとめにせず、丁寧に切り分けて一斉に検証し、さらに遺伝と環境の区別を可能にする双子研究で挑んだところに価値があります。

いわば、人間の“心のオーケストラ”の中で音楽がどんな役割を果たしているかを、遺伝学というスポットライトで照らし出したのです。

この発見をきっかけに、音楽が持つ奥深いパワーがいっそう明るみに出てくるだろうと期待が高まっています。

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元論文