これは非常に刺激的な発想で、生物が自然と“高レベルの量子誤り訂正”や“並列処理”を行っているとすれば、私たちが人工の量子マシンで苦労している問題を、生命はあっさりとクリアしていることになるかもしれません。
将来的に、こうした知見を応用した「バイオ由来の量子計算技術」が登場しても不思議ではないでしょう。
ただし、どうして炭素をベースとする生命体が、そこまで高度かつ安定した量子的プロセスを保てるのかは、まだ大きな謎のままです。
紫外線という比較的エネルギーの高い光を使いながら、しかも熱雑音だらけの地球環境で、どうやって分子同士が絶妙にコヒーレンスを保つのか。
単に「量子効果があるらしい」だけでなく、その背景にある物理メカニズムを突き止めるには、さらに多くの実験や理論モデルが必要です。
量子力学・分子生物学・情報科学の境界領域で、学際的なコラボレーションが今まさに求められているといえます。
もし本当に、細胞レベルから見た生命の営みが“宇宙の計算”に迫るようなスケールで情報処理を行っているのだとしたら、私たちが知っている“生命”や“宇宙”のイメージは、これから大きく塗り替えられる可能性があります。
タンパク質繊維の超放射はまだまだ観測手法も限られており、わからない部分が多いものの、新たな疑問が生まれるたびに研究者たちはさらなる実験や理論の精緻化に取り組もうとしています。
こうして一歩ずつ真相に近づいていくプロセスそのものが、まさに科学の醍醐味といえるかもしれません。
そしてこの先、もし生体量子現象が地球スケール、あるいはもっと広い宇宙スケールの情報処理に影響しているとわかれば、私たちの存在意義や宇宙観はどれほど変わるのか——いまはまだ入口に立ったばかりという状況ですが、その先にどんな世界が広がっているのか、想像するだけでも胸が高鳴るのではないでしょうか。
全ての画像を見る
元論文
Computational capacity of life in relation to the universe
https://doi.org/10.1126/sciadv.adt4623