2008年のリーマンショックでは、一時的にマイナス成長に転じたが、安定基金のおかげで速やかに回復。一人当たりGDPは、プーチン就任時の2000年には世界94位だったが、2023年には68位まで上昇した。対照的に、ウクライナは140位から114位と依然として低迷している。
また、国際決済システムやクレジットカードの利用が制限された際も、ロシアは独自の決済システムを構築し、制裁を乗り越えた。
「戦争の最中に財政を考えるべきではない」という主張は根強い。実際、第二次世界大戦時にチャーチルはそのように述べ、フォークランド紛争時にはサッチャーもそれを引用した。しかし、これは「平時であればあり得ないほどの財政出動も選択肢になり得る」という限定的な話にすぎない。実際、イギリスはサッチャーの財政改革によって健全な財政を維持していたからこそ戦争を遂行できた。
アメリカ独立戦争も、財政的視点から見れば興味深い。イギリスと植民地が財政負担を顧みずにフランスとの戦争に勝利したものの、その後、負担の分配をめぐる対立がイギリスと植民地の内戦(独立戦争)を招いた。さらに、フランスも戦費の過大支出により財政破綻し、最終的にフランス革命へとつながった。
東アジア史においても、明王朝は豊臣秀吉の通商要求を拒否し戦争に突入。秀吉の死によって戦争は終結したものの、明は戦費負担による財政悪化を克服できず、最終的に清に滅ぼされた。
近年のコロナ禍では、ヨーロッパ各国が大胆な支出と減税を実施できたのは、それまでに財政赤字を抑えていたからである。コロナ収束後には増税を予告し、実行している。
日本について、「対外資産があるから大丈夫」という楽観論も聞かれるが、ロシアの例を見ると、欧米による資産凍結や差し押さえが現実的な脅威となる可能性があり、安易に頼れるものではない。
財政赤字を拡大すれば短期的には景気が良くなることもあるが、長期的な経済成長には健全財政が不可欠である。これは経済学の定説であり、歴史的な教訓も裏付けている。