10月から厚生年金の適用範囲が拡大された。労働者の適用要件は年収130万円から106万円に下がり、企業規模は「101人以上」から「51人以上」に拡大した。厚労省は企業規模の要件を来年度から撤廃し、すべての企業に厚生年金への加入を義務づける方針だ。自民党もこれを公約に明記した。
自民党「基礎年金の受給額底上げ」 衆院選公約に明記https://t.co/hOOEaNWJBX
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) October 10, 2024
「基礎年金」はサラリーマンを食い物にする幻の年金勘定
結構な話のようにみえるが、ここには落とし穴がある。「基礎年金の受給額底上げ」という奇妙な言葉が使われているが、基礎年金という年金をもらっている人はいない。これは国民年金と厚生年金の1階部分を一つの年金勘定にプールした仮想的な年金なのだ。
なぜそんな年金勘定をつくったのか。国民年金の赤字を埋めるためだ。国民年金は未納・免除が増え、満額払っている人は加入者の半分しかいない。年金保険料を少しでも払った人や免除された人は半額が国庫補助になるので、その財政負担が膨張している。
もう一つの理由は第3号被保険者である。これは第2号(厚生年金の加入者)に扶養されている専業主婦とパートタイマーで、年収106万円までは保険料を負担しないが国民年金は受給できる。基礎年金勘定ができたのは、第3号被保険者をつくった1985年だった。
自営業者と専業主婦の赤字をサラリーマンが負担する
基礎年金の収支を見ると、基礎年金勘定25.6兆円への拠出額は加入者数に応じて比例配分するが、国民年金は支給額3.5兆円に対して保険料は1.4兆円と大幅に足りないので、2.1兆円を国庫負担している。厚生年金からは22.2兆円が基礎年金勘定に拠出され、その半分が国庫負担だ(積立金などは省略)。
基礎年金勘定の収支(2022年度)