そんな時、“自分自身とは何か”と尋ねられたら、簡単に“自分自身”をイメージできるだろうか。“演じている自分”の方が人気者だとして、それが本来の自分ではなかったら、そのまま幸せになれるだろうか。

『ヒットマン』© 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
薄れていく自分自身に困惑し、“自分って何だっけ”という根本的な疑問を頭に浮かべながらも作戦を遂行していく今作は、エンターテインメント作品ながらもどこか哲学的で、内容以上のものを我々に考えさせてくれた。
幻想と現実
今作は、「人々が思い描く“ヒットマン”像がそれぞれ異なり、それを具現化してあげる」というコンセプトも面白い作品だ。そうして「人々に夢を与える」ことでおとり捜査を遂行するゲイリーは、前述のとおりアイデンティティの危機におちいる。

『ヒットマン』© 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
しかし、物事はそう複雑ではないのかもしれない。「あれも自分、これも自分」とすべてを肯定してもいいのかもしれない。今作はそうも思わせてくれる。
“ありのままを受け入れる”ことも尊ばれるし、それはすばらしいことだ。しかしそれは“変化するな”という意味ではないのではないか。人間は時に変化する生き物でもある。理想・幻想の人格に影響を受け、他人と対話して恋をして、変化によって自信をつけた自分。それもまた自分の延長線として、その変化にも胸を張る。そんなスタンスもまた、一定の人々の救いになるのではないか。
「変わらないことも、変わることも、両方肯定する」ことは、矛盾するように見えて、実は「ありのまま(あるがまま)を受け入れる」という点で矛盾しないのだ。
決まった正解のない人生をどんなスタンスで生きるか、“自分”を哲学的に考えさせられながらも、誰もが楽しみやすいコミカルな警察映画に仕上がった『ヒットマン』は9月13日(金)から上映中。派手なバイオレンス描写などもないため、万人が安心だ。
『ヒットマン』作品情報
