© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.
“自由の喜び”を感じたことはあるだろうか。働きづめの後の休日。ダイエット中のチートデー。単調な日常を飛び出してのんびりを謳歌する旅行。それらはすべて、<制限>があるからこそ感じられる<自由>だ。労働を知らずに「休みの喜び」はなく、チートデーの喜びは摂食あってこそ。4月5日公開の『インフィニティ・プール』は、止まらなくなった<自由>による狂気、そして富裕層による胸糞の悪い現実を描いた恐ろしい映画だ。
映画紹介・レビュー『インフィニティ・プール』
映画『インフィニティ・プール』予告編
『インフィニティ・プール』公式あらすじ
高級リゾート地として知られる孤島を訪れたスランプ中の作家ジェームズは、裕福な資産家の娘である妻のエムとともに、ここでバカンスを楽しみながら新たな作品のインスピレーションを得ようと考えていた。ある日、彼の小説の大ファンだという女性ガビに話しかけられたジェームズは、彼女とその夫に誘われ一緒に食事をすることに。意気投合した彼らは、観光客は行かないようにと警告されていた敷地外へとドライブに出かける。それが悪夢の始まりになるとは知らずに……。
レビュー
“クローン”から始まる、倫理観の崩壊
クローンを使って自身の罪の肩代わり(死刑の身代わり)をさせる狂気のシステム。それが今作ですでに公表もされている衝撃の設定だ。
「クローン技術の発展」を扱って倫理観を問うようなフィクション作品は多数ある。しかし、今作におけるクローンは、実は倫理観崩壊へのトリガーでしかない。常にクローンを通して倫理観を問うというよりは、クローンが引き金となって倫理観が壊れ、そこからは「無罪の自由」を手に入れてしまった人間の狂気が描かれている。
面白い設定の上に胡座(あぐら)をかくことなく、独自のスタイルを追求しながら、人間の嫌な部分をとことん描き抜くブランドン・クローネンバーグ監督の映画へのまっすぐな姿勢には恐れ入るばかりだ。
格差と搾取、嗜虐性
一度ハメを外して「何をしても咎められない自由」を味わったら、もう戻れない。そんな「解放感」と、戻ろうとしても鎖で繋がれて“仲間”に足を引っ張られるリアルな泥沼感。
これは非行青少年コミュニティや反社会的組織などにもよく見る状態。そういった“戻れないワルの道”という側面に加えて、今作では明確に「金」の有無がモノを言ういやらしい価値観も浮き彫りになる。
富裕層が貧困層を見下し、オモチャ扱いし、懐柔して搾取するだけして放り捨てる。そんな構図が終始続き、非常に胸糞悪い構図だ。しかし、それが決してフィクションとは思えない。現実の世界でも、トップは手を汚さずに貧困層を利用して犯罪を犯す人々がいる。“パパ活女子”にあふれるほどの金銭を与えてから突き放し、「金銭感覚が壊れて破綻する人生」を見て楽しんでいる“パパ”がいるという話も耳にしたことがある。つまり、富裕層がその他の人間を人間扱いしない事案はそこら中に広がっているのだ。
ミア・ゴス圧巻のファム・ファタール
今作で印象的なのはなんといってもミア・ゴス。主人公の価値観が破綻するきっかけともいえる“狂気のファム・ファタール”だ。無邪気に笑い、壊し、慰め、また壊す。そんな残酷すぎる役柄を、見事に恐ろしく、そして妖艶に演じている。やはりゴスは、彼女にしかない存在感・演技を持った貴重な俳優だと再確認した。
サイケな映像・音響がすべてを歪ませる
そして主人公ジェームズの混乱を表すように、ところどころでサイケな映像・音響が観客にも襲いかかる。観客もまた、その不快感と快楽が50:50でやってくるような世界観に足をすくわれ、ともに地獄に落ちていくような感覚になる。
力(金)のない一般人が闇に巻き込まれれば、元に戻るのは至難の業。いかに<普通の生活>が尊いかも改めて考えさせられる狂気的な作品だった。
レビューまとめ
『インフィニティ・プール』は、クローンを使用した面白い設定ながら、それはエッセンス程度に抑えて主軸となるテーマを描ききったブランドン・クローネンバーグ監督渾身の1作。やりたい放題の自由を得た人々の戻れない悲劇を描きながら、富裕層が貧困層を弄ぶ現実を風刺した。狂気のファム・ファタールを演じたミア・ゴスの圧倒的存在感や、サイケな演出も印象的な映画だ。
『インフィニティ・プール』作品情報
監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ『アンチヴァイラル』『ポゼッサー』
製作:NEON
出演:アレクサンダー・スカルスガルド『ターザン:REBORN』、ミア・ゴス『Pearl パール』、クレオパトラ・コールマン『月影の下で』、トーマ ス・クレッチマン『タクシー運転手 約束は海を越えて』、ジャリル・レスペール『イヴ・サンローラン』
2023年/カナダ・クロアチア・ハンガリー合作/英語/118分/R18+/原題:Infinity Pool/日本語字幕:城誠子/配給:トランスフォーマー
© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.
公式サイト
X:@infinitypool_jp
Instagram:@transformer_inc
復習用『インフィニティ・プール』ネタバレ※
※「転・結」は日本公開6日後(4月11日)以降に掲載
起:スランプの作家が、ファンの女性と出会う
スランプ中の作家ジェームズは、裕福な資産家の娘である妻のエムとともに高級リゾート地として知られる孤島を訪れ、インスピレーションを得ようとする。ある日、彼らは女優を名乗るガビという女性に話しかけられる。彼女はジェームズの小説のファンだといい、彼女の夫を含め4人でディナーへ。後日、彼らは「観光客は出てはいけない」とされる敷地外へのドライブを行うことにする。
承:交通事故と、クローン身代わりシステム
ドライブ先で。ふたりきりになった際にガビに下半身を触られ、あえなく果ててしまうジェームズ。困惑した状態で帰るジェームズは、ガビの夫に代わり運転を任されるが、車のライトが不調に。不運にもジェームズは、暗い夜道で現地の農民をはねてしまう。
海外での交通事故に怯えるジェームズだが、ガビらに導かれリゾートへ帰還。しかし後日、ジェームズは現地の警察に逮捕される。そしてなんと「島のルール」で<即死刑>を宣告されてしまう。
動揺するジェームズに、警官が淡々と説明したのは<クローン手続法>。外国人観光客と外交官向けの法律だ。警官は多額の現金を支払えば本人のクローン(記憶もコピー)を作成し、クローンを死刑の身代わりにできるのだと説明。自身の処刑を恐れるジェームズは、困惑しながらもクローン作成同意書にサインする。
転:???
日本公開6日後(4月11日)以降に掲載。
結:???
日本公開6日後(4月11日)以降に掲載。