つみたてNISAを使えば、「分散・積立・長期」という投資の三原則を自動的に満たすことができる。資産形成のノウハウをこれから学ぶ初心者にうってつけだ。金融庁選りすぐりの商品だけが対象となっているが、なかでも注目すべきはどのような銘柄だろうか。

1.つみたてNISA(積立NISA)で最強の銘柄を選ぶときの3つのポイント

最強の銘柄を選ぶ3つのポイント

つみたてNISAの対象商品は指定インデックス投資信託156本、アクティブ運用投資信託等18本、上場株式投資信託(ETF)7本のみだ(2020年4月1日発表時点)。これらは全て安全性・コスト面で問題なしと金融庁がお墨付きを与えたもので、初心者にとって負担の大きい銘柄選びの手間がかなり軽減されている。

それでも、100本を超える商品から自分に最適なものを選び出さなければならない。何を基準にすればよいのだろうか。堅実に、できればあまり手間をかけたくない投資初心者は次の3点を重視するのがいいだろう。

⑴1本でバランスよく投資できる

初めから自分でポートフォリオを組むのは難しい。投資信託1本で全世界や複数資産に投資できる商品を検討するのも1つの手だ。銘柄選びでリスクを分散する方法としては、「地域分散」と「資産分散」がある。

地域分散は異なる地域の銘柄や通貨に投資することで、特定の地域の値下がりを別の地域の値上がりでカバーするために行う。資産分散は特性の異なる複数の資産を組み合わせる分散投資方法だ。資産の種類とは、国内株式・国内債券・海外株式・海外債券・国内REIT・海外REITなどを指す。

市場全体に投資できるのがインデックス投資信託だ。地域範囲は日本全体、米国全体、先進国全体、全世界と、該当する指数をベンチマークとするファンドを選べばよい。複数の資産を組み入れているファンドは「バランス型」と呼ばれる。

つみたてNISAに強いネット証券TOP3
ネット証券
会社名
取扱
商品数
最低
積立
金額
ポイント還元
つみたてNISAの
取扱商品数1位

SBI証券
詳細はこちら
162 100円 年率0.1%~
楽天カード決済で
還元率1%超

楽天証券
詳細はこちら
158 100円 年率0.12%~
初心者でも安心
手厚いサポート体制

松井証券
詳細はこちら
152 100円 信託報酬ー0.3%

(2)純資産総額が大きく増加傾向にある

つみたてNISAは長期で運用することを前提にしている。そのため投資する銘柄は値上がり益への期待より安定性に注目したい。

投資信託の安定性をはかるには、純資産総額が参考になる。純資産総額は基準価額に受益者口数を掛けたもので、投資信託の規模を表す。この金額が大きいほど安定性が高い。

つみたてNISAの対象商品になるには一定以上の純資産があることが条件なので、極端に低いものは存在しない。純資産総額の条件はアクティブ運用投信の場合、50億円以上に設定されている。インデックス型投信には特に規定はないが、100億を超えればまずまずだと考えて良い。

純資産総額が大きくても減少傾向なら要注意だ。組み入れている有価証券の時価下落や、投資家が売り傾向にある可能性がある。逆に、順調に資金が流入しているファンドなら今後の成長も期待できる。

純資産総額は大きければ5,000億円近いものもある。参考までに、SBI証券のつみたてNISA対象銘柄のうち、調査時点で純資産総額が上位10本の銘柄を抽出し、その中で純資産総額が前回調査の4ヵ月前と比較して伸び率が高いファンドを5つ検索した。ベスト5は以下の通りだ(※下の表は2021年2月1日時点を基準とする)。

純資産総額増加率ランキング(4ヵ月伸び率)

    純資産総額 4ヵ月伸び率
1 eMAXIS Slim 全世界株式
(オール・カントリー)    
914.77億 91.43%
2 SBI・バンガード・S&P500
インデックス・ファンド
1,143億 56.09%
3 eMAXIS Slim 米国株式
(S&P500)
2,511.58億 55.91%
4 楽天・全米株式
インデックス・ファンド
1,856.17億 36.68%
5 eMAXIS Slim
先進国株式インデックス
1,549.66億 24.37%
※筆者作成

純資産残高が最も高いランキングではなく、最近伸び率が上昇している銘柄を挙げた。ちなみにつみたてNISA対象銘柄で純資産残高が最も高いのは4,495億円のレオス・キャピタルワークスの「ひふみプラス」だ。

資金流入の勢いがあるのが三菱UFJ国際の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」だ。4ヵ月で91%も残高を増やしている。基準価額も2020年3月から上昇を続けている。

SBIアセットマネジメントの「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」も急激に資産残高を増やしている。バンガード社とS&P500は今人気のキーワードだ。2019年9月に設定された新しいファンドであることを考えると残高の伸びは驚異的なものがある。

5位までの内訳は米国株式が3本、全世界株式が1本、先進国株式1本となっている。米国の堅調さが目立つ。

⑶信託報酬が安い

投資信託は便利な金融商品だが、運用をプロに委ねるため「信託報酬」という手数料が発生することが難点だ。つみたてNISAは長期で運用するものなので、信託報酬の安さは重要である。

あくまでも試算だが、信託報酬が0.1%の投資信託に毎月3万円を積み立てて20年間運用すれば、費用は信託報酬だけで7万2,795円だが、0.2%なら14万4,626円だ。長期投資では0.1%の違いが大きな差となる。

つみたてNISAの対象商品からはあらかじめ極端に信託報酬が高いものは除外されている。つみたてNISAの投資信託の信託報酬は法令上の上限が決められており、国内外・海外に投資するファンドは0.75%(税抜)、国内向けは0.5%(税抜)を超えては設定できない。つみたてNISA対象の公募投信(株式型)の信託報酬率の平均はインデックス型で0.27%、アクティブ型で0.96%(2020年4月1日時点)だ。

実際に取引されている公募投信(インデックス投信)の信託報酬は、国内外・海外向け平均が0.32%、国内向け平均が0.27%となっており、法令よりはるかに低く抑えられている。つみたてNISAは非課税期間が20年という制度上の特徴から長期投資のインセンティブが働き、金融機関にとっては信託報酬率が低くても十分に利益が見込める分野となっていることが大きい。

信託報酬は高いものでは2%を超える。ただ、投資信託の信託報酬率はどんどん低下する傾向にあるため、つみたてNISAの中でもできるだけコストの安いものを選びたい。

つみたてNISAで買える信託報酬が安いファンドをみてみよう。対象期間は2020年5月末時点だ。

    信託報酬等(税込)
1 野村スリーゼロ先進国株式投信 0.00%
2 SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド 0.09%
3 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) 0.10%
4 SBI先進国株式インデックス・ファンド 0.10%
5 ニッセイ 外国株式インデックスファンド 0.10%
6 eMAXIS Slim先進国株式インデックス 0.10%
※※モーニングスタースター社の低信託報酬ランキングより

注目なのが「野村スリーゼロ先進国株式投信」だ。購入時手数料、信託財産留保額が無料であるだけでなく、なんと信託報酬までが0円となっている。ここまで安くできるのは多くの条件が付けられているからだ。

たとえばこの商品は野村オンラインサービスからのみ申し込めるつみたてNISA専用商品で、野村證券の窓口や他社で購入することはできない。メールアドレス・Web交付サービス・メール交付サービスに登録している人のみが対象だ。しかも、信託報酬0%は2030年12⽉31⽇までの期限付き。2031年1⽉1⽇以降は0.11%(税抜0.10%)が課せられる。

なお、つみたてNISA口座対応の証券会社を、信託報酬率が0.3%以下の投資信託の取扱数で比較したのが以下の表だ。

信託報酬率0.3%以下の商品取扱数ランキング

信託報酬率0.3%以下の商品取扱数ランキング
ネット証券 取扱商品数
1位 SBI証券 80本
国内金融機関で最多
2位 楽天証券 79本
3位 松井証券 75本
4位 au カブコム証券 72本
※2020年6月5日時点

2.つみたてNISA(積立NISA)銘柄で有力な投資信託5選

つみたてNISAではどのような銘柄が選ばれているのだろうか。5大ネット証券であるSBI証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券が提供している「積立設定件数」や「資金流入」などのデータをもとに、つみたてNISA有力投資信託を5本選出した。1社のみのランキングとは異なり、全体的に人気のある商品を見つけるのに参考になるだろう(2021年2月4日時点)。

1位—— eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)……米国ハイテク株の好調を反映した低コスト人気銘柄

純資産総額……2,683.68億円 信託報酬……年率0.0968%(税込)

eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は三菱UFJ国際投信のインデックスファンドシリーズ「eMAXIS Slim」のS&P500に連動する人気銘柄だ。調査した4社のすべてで月間ベスト3に入るという堅調さだ。

GAFAをはじめとする米国ハイテク企業が順調に業績を伸ばしており、それらを主な構成銘柄とするS&P500に連動する投資信託も人気を博している。中でもeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は信託報酬が年率0.1%を切る低コストだ。資産カテゴリとしては米国株式に偏ってしまうため、他の銘柄と合わせて保有したい。

<購入できる金融機関例>
SBI証券
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券

2位—— eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)……迷ったらこれ!1本で全世界に分散投資

純資産総額……989.49億円
信託報酬……年率0.1144%(税込)

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は三菱UFJ国際投信のインデックスファンドシリーズ「eMAXIS Slim」のMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに連動する銘柄である。実質的に日本および先進国・新興国を含む全世界に投資できる。「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year 2020」では2年連続1位だ。これ1本で全世界に分散投資ができてコストが低く抑えられていることが評価のポイントである。

米国ハイテク株が絶好調だった時期はS&P500に連動する同ファンドに騰落率でやや出遅れ感があったが、2021年に入ってからはこちらのほうが資金流入の勢いがある。「迷ったらとりあえず」の1銘柄と言っていい。

<購入できる金融機関例>
SBI証券
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券

3位——ひふみプラス……日本株式アクティブ投信でまず検討すべき超大型ファンド

純資産総額……4,588.22億円
信託報酬……年率1.0780%(税込)

ひふみプラスは主に成長が見込まれる日本企業に投資するアクティブ型投資信託だ。2012年の運用開始から順調に資金を集め、一時6,000億円を超える純資産総額を誇った。ただ、現在は減少傾向にあり5,000億円を切っている。

直販型の「ひふみ投信」が先だが、つみたてNISAでも運用できるよう販売会社を通じて購入できるのが「ひふみプラス」だ。国内株式が対象だが、2021年1月末のレポートでは約12.5%の海外株式も組み入れている。好調のときは株式を多めに保有し、市場全体が軟調のときは現金を増やすなど、柔軟な運用スタイルが特徴だ。インデックス型に比べて信託報酬は高めだが、アクティブ型で年率1%程度なら許容範囲と言えるだろう。

<購入できる金融機関例>
SBI証券
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券

4位——楽天・全米株式インデックス・ファンド……人気バンガード社の全米株式市場ETFに100%投資

純資産総額……1963.87億円
信託報酬……年率0.162%(税込)

楽天・全米株式インデックス・ファンドは、楽天投信投資顧問が運用する、米国株式を対象とするインデックス型投資信託だ。S&P500とは異なり、米国株式市場の大型株から小型株まで投資可能銘柄をほぼ100%カバーした指数に連動する。

メリットとして、バンガード社のETFに日本から気軽に投資できる点がある。つみたてNISAで「CRSP USトータル・マーケット・インデックス(円換算ベース)」をベンチマークとするのは同ファンドだけである。大型ハイテク株だけでなく米国全体に投資したい人に向いている。ただし、1つの指数に連動する米国株式インデックス・ファンドとしてはコストがわずかに高めである。

<購入できる金融機関例>
SBI証券
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券

5位—— eMAXIS Slim 新興国株式インデックス……アジアを中心とした新興株式に低コストで分散投資

純資産総額……544.94億円
信託報酬……年率0.1870%(税込)

つみたてNISA の人気銘柄としてじわじわ順位を上げてきているのが「eMAXIS Slim」の新興国株式インデックスだ。MSCIエマージング・マーケット・インデックス指数に連動する。目論見書では2020年9月末時点での国別対象地域は中国が41.9%、台湾が12.8%、韓国が12.1%、インドが8.2%とアジア地域が中心となっている。日米欧以外の新興国に分散投資をしたい場合に適している。

低コストが支持される同シリーズの中では信託報酬が高めだが、同カテゴリの他ファンドに比べると低めに抑えられている。つみたてNISAをこれ1本にするのは不安があるため、他の商品と組み合わせて保有したい。

<購入できる金融機関例>
SBI証券
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券

3.つみたてNISA(積立NISA)が投資初心者にとって最強の投資である3つの理由

金融投資で重要なことは、いかに「当たり」を引くかではなく、いかに「ハズレ」を引かないかという点にある。数多ある金融商品の中から値上がりするものを探し当てられるかが焦点になりがちだが、そうではない。予測は誰にも不可能であり、リスクをどれだけコントロールできるかが結果を左右する。

そのリスクコントロールに必要なのが先ほど述べた「長期・分散・積立」の原則だ。つみたてNISAはあらかじめこれらに沿った投資しかできない仕組みになっている。しかも値上がり益と分配金は非課税だ。

異なる種類に投資してリスクを分散できる

「分散投資」という言葉は聞いたことがあるだろう。1種類の金融商品に全額突っ込むのではなく、値動きの異なる複数の商品に分けてリスクを軽減する投資の基本である。複数の事業を手掛けることで特定事業が落ち込んだときもカバーできる総合商社の手法と似ている。

分散投資は投資先の「地域」を分散する方法と、株式・債券・REITなど「資産」を分散する方法がある。投資信託ならそのどちらも満たす商品が存在する。

「ドルコスト平均法」により買値を抑えられる

投資は「安いときに買って高いときに売る」ことによって値上がり益が得られる。しかし、売買のタイミングはプロにも難しい。そこで購入のタイミングを分散させる積立投資という方法を活用する。毎月など一定額ずつ購入することで高値づかみを防ぎ、購入金額を抑えることができる。

また、一定額内で購入するので、安いときには口数を多く、高いときには少しだけといった買い方が自然とできる。これを「ドルコスト平均法」という。もちろん万能ではない。値下がりが続く株や投資信託ではこの手法を使っても損をする。値上がりを続ける銘柄であれば一括で買って売ったほうが利益は高くなる。しかし、上昇と下落を繰り返すケースであれば、ドルコスト平均法はその威力を発揮する。

長期投資することで収益がプラス化しやすい

銘柄選定や売買のタイミングが難しい金融投資では、時間を味方に付けることによって初心者でも元本割れする可能性をかなり低くすることができる。金融庁の調査では、保有期間が5年の場合よりも20年のほうが運用成績はプラスに安定することが明らかになっている。利益を再投資することで得られる複利の効果も長期になるほど大きい。

金融商品のなかには値動きが激しいものや数年で廃止になってしまうなど長期投資に向かないものが存在する。しかし、つみたてNISAでは信託契約期間が長く分配頻度が毎月ではないといった長期投資に適した条件を満たす商品に限られている。

4.つみたてNISA(積立NISA)ではリスク面とコスト面で最強な銘柄を選ぶ

先ほど紹介したのは現時点で安定性・コスト面で優良と考えられるファンドだが、将来を保証するものではない。選ぶ基準のほうを参考にしていただきたい。慣れてくれば新興国やREITなどにも挑戦してみてもいいだろう。その際には、つみたてNISAがふさわしいのか、あるいは一般NISAや特定口座が適しているのかの検証も併せて必要である。

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篠田わかな
執筆・篠田わかな
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
外資系経営コンサルティング会社で製造・物流・小売部門のコンサルタント業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。


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