(内閣府「国民経済計算」)

 2000年度に78.4兆円だった社会保障給付費は、高齢化やサービスの充実によって増加し、20年度には1.6倍の126.8兆円(当初予算ベース)に達した。分野別に見ると、年金の1.4倍、医療の1.5倍に対し、介護が3.7倍となり、00年4月に介護保険制度が開始されて以降、介護需要が急拡大した様子がうかがえる。40年には20年と比べて総人口が1割以上減少するが、75歳以上に限れば2割近く増加すると推計されている。今後も介護を中心とした社会保障給付費の高い伸びが見込まれる。
 社会保障給付費の膨張に伴い、保険料の上昇が続いている。図表は、家計が負担する社会保険料(雇い主負担の保険料を除く)と所得税等の直接税について、それぞれ賃金等に対する比率を示している。直接税負担率は、1990年度の15.7%をピークに低下し、2000年代には横ばいもしくは緩やかな上昇となっている。一方、社会保障負担率は1980年度の6.0%からほぼ一貫して上昇し、2019年度には15.1%と直接税負担率の12.1%を上回る。社会保険料が賃金等を上回って伸びており、家計の可処分所得を圧迫する要因となっている。
 このうち年金については、17年以降の厚生年金保険料率が労使合計で18.3%、17年度以降の国民年金保険料が月額1万6,900円(04年度賃金価格。産前産後期間の保険料免除制度の開始に伴い19年度以降は1万7,000円)で固定されたことから、年金保険料の賃金等に対する比率の上昇は止まったと考えてよい。
 一方、医療と介護は保険者ごとに保険料率が異なるが、需要の増加に応じて料率が引き上げられる。被用者保険の19年度時点の平均を見ると、健康保険料率とそれに上乗せされる40~64歳の介護保険料率はそれぞれ、健康保険組合で9.2%と1.6%、協会けんぽで10.0%と1.7%に達している。総務省の「家計調査」によれば、勤労者世帯(2人以上)の1カ月当たりの実額は、20年までの10年間で、健康保険料が1万6,921円から2万1,370円(世帯主収入比で1.2倍)に、介護保険料が1,629円から3,454円(同2.1倍)に増えた。医療・介護ニーズの拡大に応じた家計の負担増は続くと予想されるが、すでにその限界は近いように思われる。
 制度の持続可能性を高めるためには、高齢者の応能負担の強化等を通じた自己負担増と合わせて、医療・介護費そのものの効率化や重点化によって給付の伸びを抑制することがますます重要になる。この改革の推進は家計の負担増を抑制し可処分所得を増やすことにほかならず、成長戦略でもある。

 

きんざいOnline
(画像=きんざいOnlineより引用)

文・大和総研 政策調査部 / 武井 聡子
提供元・きんざいOnline

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