(厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ会議」資料)
2015年から「地域医療構想」が進められている。同構想は病床を減らすことが主目的ではないが、そうした要素を含むものだ。ところが足元では、新型コロナウイルス感染症の患者のための病床不足が問題となっており、この構想を進めるのは難しい雰囲気が漂っている。
同構想は、人口減少や高齢化の進展による量と質の両面から医療需要の変化を見据え、25年に向けて病床の機能分化と連携を地域ごとに進める取り組みである。今後は、回復期や慢性期の医療ニーズが高まる。そこで、18年時点で全国に124.6万床ある病床のうち、その約6割を占める高度急性期・急性期病床を減らす一方、回復期病床を増やしつつ、全体を119.1万床にする計画となっている。
そもそも、日本の人口当たりの病床数は諸外国と比べて際立って多い。高度急性期病床だけでも約16万床あり(18年時点)、その稼働率は8割程度だから、約3万床は空いている計算である。そのすべてが新型コロナ患者に対応できるわけではないだろうが、11都府県に緊急事態宣言が出ている中で、全国の重症者数は1月18日に1,000人を超えた段階であることを踏まえると、病床不足は単に数が足りないという問題でないことは明らかだ。
図表は、20年9月末時点で、新型コロナ患者を受け入れられる病床を1床以上整備した医療機関の割合を示している。20床以上ある医療機関のうち「受け入れ可能」としているのは23%止まりで、高度急性期・急性期病棟を有する医療機関に限定しても4割弱にすぎない。これは、高度急性期・急性期の患者に対応するという看板を掲げている医療機関が多いわりに、コロナ禍の中では、全体としてその医療機能を適切に発揮できていないことを表しているのではないか。
それぞれの病床が持つ本来の機能を発揮させるには、地域医療構想を実現して地域内の役割分担を明確にする必要がある。実際、地域内の病院が連携し、新型コロナ患者の症状に合わせた適切な入院調整を行っている自治体も見られる。
社会が未知のウイルスに襲われたときに、平時と異なる医療体制を取るなど高い対応力を示せるかどうかは、自治体や医療の関係者が日頃から協力・連携できているかどうかによる。有事の際に必要となる医療を確保できるように、事前に十分な計画を策定しておくことも重要だ。そのためにも、地域医療構想について早期に具体的な工程をあらためて定め、再加速させることが不可欠である。
文・大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
提供元・きんざいOnline
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