コロナ禍が長引き旅行需要回復が停滞するなか、大手旅行各社が構造改革に大なたを振るい始めた。すでに各社とも経費構造・事業構造の見直しに着手し改革を徐々に進めてきたところだ。しかし未曽有のコロナ危機に直面し、改革を一気にスピードアップする必要に迫られている。
コロナ禍の影響を受ける以前、旅行取扱額(観光庁・主要旅行業者の18年度取扱状況)の上位3社はJTB、エイチ・アイ・エス(HIS)、KNT-CTホールディングス。このトップ3がいずれもコロナ禍に沈んだ。
先ごろ20年10月期(19年11月~20年10月)連結決算について発表したHISは売上高を前期比3782億円落とし、営業利益も487億円減少した。経常利益は484億円減少した結果、313億円の経常損失となった。
KNT-CTは21年3月期中間期(20年4~9月)決算を発表した際に通期(20年4月~21年3月)の連結業績予想を明らかにした。それによると通期の売上高は前期比2454億円減り、営業損益も234億円減少。経常損益は136億円減って、経常損失額が前期の14億円から150億円に膨らむとの見通しを示した。
JTBは21年3月期中間期(20年4~9月)連結決算で売上高が前中間期比5562億円減少し、営業損益は775億円減少、経常損益が649億円減少し、580億円の経常損失になったと発表。同時に通期業績について経常損益に関してのみ言及した。それによると前期は25億円の経常利益だったのに対し、21年3月期は1000億円規模の経常損失に転落するとの見通しを公表した。
各社は大幅な売り上げ減少と収益悪化を受けて経費削減と構造改革に対する強い姿勢を打ち出している。たとえば国内店舗の整理・縮小については、JTBが22年3月末までに115店舗、KNT-CTが同じく22年3月末までに個人旅行店舗を3分の1に縮小、HISが21年初めまでに105店舗の店舗削減、統廃合計画を明らかにしている。つまり、コロナ禍に見舞われた20年を中心に、トップ3だけで約1600億円もの経常利益が失われ、今後1年ほどの間に300以上の旅行店舗が消えることになる。
進む旅行事業の変革
コロナ禍がもたらした巨大なインパクトは、大手旅行会社にとって構造改革への圧力となり、さまざまな経費削減策によるコスト構造の改革や事業構造の改革を迫っている。旅行店舗の整理・縮小は改革を象徴するものだが、各社の取り組みはそれにとどまらない。
KNT-CTは長らく同社の看板商品で企業の顔ともいえる国内・海外のパッケージツアー商品メイトとホリデイの販売を21年3月で終了。以降はダイナミックパッケージをベースとする募集型企画旅行にシフトする。ツアーの主要な販売拠点であった旅行店舗の縮小と合わせて、ひとつの時代の終焉を如実に示す施策といえる。
JTBは決算発表の席上、パッケージツアーブランドのエースJTBやルックJTBについて「やめてしまうつもりはない」(山北栄二郎代表取締役社長)と否定したが、「自由度の高い個人型の商品造成に変えていく必要がある」として、商品のダイナミック化を強力に推進していく方針を示している。すでに20年5月に発売したJTBダイナミックパッケージMySTYLEで、10月からはJR商品の販売も開始。新たな主力商品化に向けた補強に力を入れる。
一方、HISは開拓途上の国内旅行に本格的に打って出る覚悟だ。海外旅行ではJTBに次ぐ取り扱い規模のHISだが、国内旅行取扱額は18年度主要旅行業者のベスト10にも入らず11位。同社の旅行事業に占める国内旅行の売上高シェア(18年度)も10.5%にとどまっている。しかし、今後は「これまではHISになかった商品やサービスを増強し添乗員付き商品開発の強化にも努める」(中森達也取締役専務執行役員)と、徹底的に国内レジャー旅行を強化する。海外旅行から人員を移し、企画・仕入れを強化。チャーター事業やバス・鉄道ツアーも拡充する。これにより19年度383億円だった国内レジャー旅行の売上高を23年に1600億円に拡大する。
提供元・トラベルジャーナル
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