「コロナ」で明け暮れた2020年が終わり、状況的に大きな好転もなく2021年の新年を迎えた。昨春以降、グローバルにヒト、モノ、カネの移動が止まり、社会は一変した。

食品業界においては内食化による家庭用需要が増加したものの、外食業界が著しく不振を極めた。外食産業は食品業界を動かす両輪の一つ。インバウンド需要の喪失に加え、消費者が外食を控える一方、通販やデリバリーサービスが重用されるようになっているが、一昨年度に25兆円あった市場をカバーできるわけはない。また、社会変化のなかで、食品小売業ではコンビニがビジネスモデルの見直しに迫られるなど、販売チャネルによる浮き沈みが如実になった。

今回のパラダイムシフトでは「もはや元に戻れない」とする論調が圧倒的になっている。英国、米国ではワクチン接種が始まった。上半期は引き続き我慢を強いられようが、秋口以降は「完全には戻らないけれども徐々に平時を取り戻す」ことを祈念するしかない。

「SDGs」「働き方改革」などがこの一年で加速化した。急激な変化は苦痛を伴うが、業界はこの社会変化、需要変化、環境変化に対応しなければならない。しかし、いずれにせよ大切なのは、食品のインフラを守るのと同時に、食の価値観を守ることだ。昨年秋以降再び価格競争の傾向が強まっている。「NEW NORMAL」下では、業界の価値を下げる取り組みではなく、価値を高める取り組みが求められる。

巣ごもりでパラダイムシフト 通販、生協にフォーカスも

出口が見えない社会状況のなか、消費者の節約志向が強まっている。巣ごもり需要で高止まりした食品の販売価格も、昨年秋口以降は随所で業態間および業態内での競合が強まり、食品の価格に反映されるようになっている。

昨春以降、消費者の外出自粛で苦戦したのは、百貨店とコンビニ。インバウンド需要をカンフル剤に延命してきた百貨店は、カンフル剤を失い大苦戦。苦しんだ販売業態では、長年独り勝ちを継続してきたコンビニも来店客数の減少で苦戦。24時間営業などをはじめ本部と加盟店との問題も露呈し、FCビジネスのマイナーチェンジもしくはフルモデルチェンジが必要となっている。

食品スーパーは久しぶりに売上高、利益を増やした。感染拡大以降、三密をあおる可能性があることからチラシ特売を控えた結果、この十数年デフレで苦しんできた企業が軒並み好業績となった。ドラッグストアも大手チェーンはおおむね好調だが、商業立地の店舗展開が多いマツモトキヨシやココカラファインはインバウンド需要の喪失によりに憂き目を見た。

ドラッグストアと同じく躍進が目立ったのは、ディスカウンターと通販。ロピアの関西進出も地元商圏に大きなインパクトを与えた。ディスカウンターの躍進は食品スーパーにとって脅威にほかならず、昨年秋口以降は、折り込みチラシでの販促が活発となっている。再び価格競争になりかねない状況だ。

2021年は、好業績だった各企業にとって昨年の実績をどう維持するかが試される年となるだけに、安易な廉売は避けなければならない。

昨年最も需要が増えたのはアマゾンジャパン(以下、Amazon)を代表格とする通販だ。Amazonは昨年、日本市場への進出20年目の節目の年だったが、巣ごもり需要を受けて増収増益、年商2兆円突破が確実となっている。4年前にスタートしたAmazonフレッシュも整備されてきており、今年はさらに飛躍することになる。

これに対し、食品小売大手もリアルとネット(デジタル)の連携による売りの仕組みを進化させようとしている。イオンは一昨年、オカド(英国)と、昨年は西友が楽天、ライフはAmazonと提携し、EC事業の強化を進めている。

また、DX(デジタルトランスフォーメーション)がここにきて盛んに取り上げられるようになっているが、リアルとデジタルの融合によって、ビジネスの効率化がどこまで進むのか、今年はその成功事例が増えてくるはずだ。

しかし、小売業にとって肝心なのは、既存ビジネスであるリアル店舗をどう守るか。リアル情報をデジタルに変換した上で、改めてリアル店舗に落とし込むことは容易ではない。

メーカーも同様だ。Amazonなどネット通販での販売も拡大しているが、現状ではやはりリアル店舗での販売が主体。通販向けの商品開発も活発化しつつあるが、NB商品のブラッシュアップも必要だ。

SDGs、エシカル… 温暖化対策でキーワード

日本生活協同組合連合会(以下、日生協)が発表した全国65主要地域生協の昨年上期の供給高は前年比15.7%増。9月こそ一ケタ伸長となったが、10月以降は再び二ケタ台で事業規模を拡大した。またWebによる新規加入者は半年(3~8月)で約56万人と前年の倍以上増加し、組合員総数は3千万人を突破した模様だ。

Amazon、日生協ともに個人宅配の利便性が社会環境にマッチにしたわけだが、生協の場合は、PBに対する信頼性の高さも、この状況下で支持者を増やした。値頃感よりもクオリティが新規加入者を呼び込んだ。

一部の小売業では日生協の成功事例をベンチマークとし、ビジネスモデルの見直しやPB商品の開発を進めているが、今年はさらにこの傾向が強まることになるだろう。

社会が抱えるさまざまな課題が網羅されたSDGsは、将来のリスクをチェックする指標となる。食品業界は、自然および人的な資源で成立しているだけに、SDGsの達成によって環境と社会を安定させ、ビジネス上のリスクを回避することになる。

特に地球温暖化については、気温上昇や頻発する自然災害によって原料となる農林水産物の生産が脅かされているだけに、業界すべてが可能な限り取り組む必要がある。現在は食品三層でも大手中心に取り組まれているが、中小企業の参画も望まれる。

SDGsの進捗により、CO2排出、食品ロスに対する関心を深める消費者が増えている事実がある。変化に敏感な一部の小売業は、こうした変化をとらえた品揃えに取り組んでいる。しかし、「オーガニック」農産品は、青果売場の売上構成比5%に満たないのが現状。これまでは高付加価値商品がさほど見向きもされなかったが、昨年の日生協の躍進以降、安心安全を訴求できる生産方式による生鮮品や、オーガニック原料使用や包材でも環境に対応した加工食品の評価が徐々に高まっている。

この潮流は今年、さらに加速化しそうだが、課題がないわけではない。国内の消費者の食品を見る目が成長していないからだ。2001年から12年間続いたデフレによって「より良いものを安く購入できるのが当たり前」といった感覚が身についてしまっている。良いものを安く、は商売の鉄則ではあるが、食品流通では、生産者や加工メーカーの努力を評価せず、納価だけで判断する商売がまかり通っている。

メーカー、卸売業、小売業の三方良しが実現できる商いを実現するには、商品の価値観を消費者にきちんと正確に伝える努力が不可欠。特に小売業にはそれが求められる。そうした努力を実践する小売業のみが前年の業績に再び迫れるのではないか。

「SDGs」「サステナブル」「エシカル」「カーボンニュートラル」などがバズワードとなってネット上で氾濫している。社会のありようが大きく変化するなか、地球温暖化に対する取り組みはどの企業でも今年以降、一層求められる。業界各社はビジネスモデルの再構築を推し進めて持続可能な企業として勝ち残らなければならない。

マスメディアの報道は結局のところ、何が正しく何が正しくないのかは判明しないのが現状だが、それでもさまざまなことが解明されていくはずだ。東京五輪開催の見通しはまだ立っていないが、国内でのワクチン接種は間もなくスタートする。上半期を乗り切れば、秋口には人の活動および外食も徐々に回復し、喪失したインバウンド需要も戻ってくるかもしれない。完全な元通りは期待できないにせよ、少しでものどかな光景が戻ってくると信じるしかないのだ。

提供元・食品新聞

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