世界の日常が一変した2020年が過ぎ、2021年が明けた。「東京オリンピック・パラリンピックの開催で世界中から千客万来の今年を起点に…」と書いたのは、ちょうど1年前のこの欄だ。よもや翌年もまた五輪開催を待望する年明けになろうとは、誰も予想しなかっただろう。経験したことのないことばかりの一年を経験してもなお、これからの一年は五里霧中。紆余曲折を経た今年こそ、食品業界の新たな発展のスタートとなることを祈るばかりである。さて本紙新年号吉例、元祖「業界天気予報」。今年も担当記者の知見と独断で各カテゴリーの天気をずばり予想。各カテゴリーの年間見通しをお届けする。
今回、本紙が「はれ」または「快晴」を予報した品目・業種は36。昨年をやや上回り、引き続き全体の約3分の1を占めている。
やはり目立ったのは、コロナ後の需要激変にともなうカテゴリー間の浮沈である。
思い起こされるのが、昨年2月末に全国の公立校の一斉休校が発表された翌日に訪れたスーパーの売場だ。前日まで学校に通っていた児童・生徒らが突如として平日昼間も家で過ごすことになり、慌てた保護者らは食材の買い出しに殺到。即席麺、パスタ、冷凍食品、スナック菓子といった、即食性や保存性、腹持ちの良さ、コスパなどの面で優れたカテゴリーの食品が飛ぶように売れた。4月の緊急事態宣言後にはこの動きが再燃、品薄や欠品が長期間にわたり続いた売場もみられた。
宣言解除後も外出自粛の継続やテレワークの定着を背景に、生活者の日常は大きく変化。外食業界の苦境の強まりとともにフードサービス向けの業務用食材の売上げも落ち込む一方、家庭では内食需要や健康意識が高まりをみせた。
これを背景に需要を伸ばしたのが、たとえば包装餅である。「冬の食べ物」といったイメージが根強かった餅だが、主食系食材が品薄となった売場で、日常食としても使えることを消費者らは“再発見”。メーカーの側でも、これを機に改めて市場活性化を目指す機運も強まってきた。
家庭での料理離れが言われていたなか、改めて「手作り」の良さも注目されることとなった。少子高齢化の逆風からじり貧傾向が続いてきたトマトケチャップも、メニューの多様化とともに料理に活用される機会が広がり、市場は久々の盛り上がりを見せた。各種スパイス類やわさび、からしなどの香辛料も、家庭内での調理機会増加を受けて活況を呈している。
例年「はれ」予報が多い健康イメージの強い食材も、在宅中の体調管理のため取り入れる消費者が増え、ますます活気づく。豆乳やオリーブオイル、ナッツなどのほか、ヨーグルト、乳酸菌飲料やチョコレート、紅茶など機能性で近年注目される食材も、引き続き好天が予想される。
これらにとどまらず巣ごもり生活の広がりは、今年も広範なカテゴリーに影響を与えそうだ。昨年に需要が激増した即席麺や乾麺、家庭用冷凍食品は言うに及ばず、増える家飲み需要を獲得した缶チューハイなどのRTDや、ふりかけ・お茶漬け、包装米飯、セット米飯、炊き込みご飯や炒めご飯の素といった米飯関連商品も、内食の拡大機運をつかみ勢いづいている。
他方で、意外にもコロナ禍で需要が縮小したのが清涼飲料である。昨夏の記録的猛暑にもかかわらず、人の流れが停滞したことにより自販機とコンビニの売上げが苦戦。市場はマイナスでの着地となった見込みだ。アイスクリームも家庭向けのマルチパック商品は好調に推移した一方、自販機やコンビニでの販売は飲料同様に低迷した。冷凍食品やコーヒー、食用油、小麦粉、米粉など、今年も家庭用市場が好調に推移するとみられる一方、業務用市場の苦境が長引いている品目も多い。
今年は丑年。気になる牛乳だが、酪農家の減少などにともなう生産基盤の弱体化で、将来的な乳資源不足が引き続き懸念される。そんな状況を「モ~今年こそ打開を」との思いは通じるのか――。
業種や商品カテゴリーによって悲喜こもごもとなった昨年の食品業界。今年はどんな空模様をみせるのだろうか。来年のこの欄で、快晴の一年を報告できることを願う。
提供元・食品新聞
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